平成29年度は,反事実的思考と感謝理解の関連に関する研究を実施した。 実験では,4-6歳児を対象に,反事実課題3問と感情理解課題4問を実施した。反事実課題では「初期状態⇒原因事象⇒結果状態」という因果構造を持つ物語を読み聞かせた後,2つの統制質問(Now質問,Before質問)と反事実質問を尋ねた。例えば,「庭の机の上に,絵がある⇒風が吹く⇒絵が風に飛ばされ,木の上に乗る」といった物語を読み聞かせ,「絵は最初どこにあったか?」(Now質問),「絵は今,どこにあるか?」(Before質問),「もし風が吹かなかったら,絵はどこにあるか?」(反事実質問)を尋ねた。感謝理解物語では,「主人公に援助が必要な場面⇒他の援助者が主人公を助ける場面⇒その後,援助者が困っている場面」という構造を持つ物語を読み聞かせた後,主人公の感情,援助者への好意度や援助の有無について尋ねた。例えば,「主人公が公園で遊んでいる時,ハンカチを落としたことに気が付く⇒砂場で遊んでいた友達(援助者)が一緒にハンカチを探し,ハンカチが見つかる⇒友達の作っていた砂山が壊れている」という物語を読み聞かせ,「助けてくれた時,主人公はどんな気持ちか?」「友達が困っている時,助けてあげるか?」等を尋ねた。予備的な分析の結果,反事実的課題での遂行の良さは,「(主人公が持つ)援助後のポジティブ感情」の理解や全体的な感謝理解の高さと関連することが示された。 この実験は,幼児期において,“もし援助者が助けてくれなかったら…”という反事実が,被援助後のポジティブ感情を増加させ,高度な感謝理解に繋がる可能性を示している。
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