研究課題/領域番号 |
15K17270
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
上宮 愛 浜松医科大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任研究員 (50555232)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム / 司法面接法 / エピソード記憶 |
研究実績の概要 |
健常児に比べ,コミュニケーションに障害のある子どもは,虐待に遭う頻度が1.7倍であるといわれている(Crosse, Kaye & Ratnofsky, 1993)。特別な配慮を必要とする人々への事実確認において「司法面接法(forensic interview)」と言われる面接手続きが用いられる。「司法面接法」とは,記憶研究などで,正確な情報を多く引き出すと言われている「自由報告(自由再生)」という質問手法を用いて,証人からより多くの情報を正確に引き出す事を目的とした面接技法である。本研究では,自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder; ASD)者を対象とし,ASD者の出来事についての記憶(エピソード記憶)の聴き取りにおける自由報告の効果について検討することを1つ目の検討課題とした(研究1)。第2に,ASD者のルーチンに関する記憶(日常場面の様々な状況で行われる一連の行動に関する知識)の聴き取りにおける自由報告の効果を検討する事を目的とした(研究2)。平成27年度は,以下の3点を行った。1つ目に自閉症スペクトラム障害を持つ人々のエピソード記憶の特性に関する先行研究の文献レビューを行い,現在レビュー論文を執筆中である。2つ目に,研究1で使用する記銘材料(実験場面で記憶させる情報)の選定・再検討を行った。3つ目に,東海地方の実務家(検察,警察,児童相談所職員,弁護士など)を対象とした2日間にわたる司法面接法の研修を実施し,実務場面での現状に関する情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
進捗状況の遅れの原因として,以下の2つの点があげられる。1つめに,記銘材料(実験場面で記憶させる情報)の再検討がある。先行研究の多くは,記銘材料に単語リストなどを用いたものがあり,本研究で扱う様な,体験に基づく出来事の記憶(エピソード記憶)について検討したものは少ない。研究1を実施するにあたり,どのような記銘材料が適切であるのかをさらに検討するため,ASD者の記憶特性に関する先行文献のレビューを行った。先行文献のレビューについては,その内容をレビュー論文として現在執筆中である。本研究の研究1では,参加者に,1分程度の映像を6種類提示し,その内容について自由報告の形式で聴き取りを実施する予定であった。計画段階では,映像は,①中立的(女性が公園に自転車でやってきて,公園のベンチに座り読書を始める),②物の移動,③空間位置(部屋の中のどの位置に人が移動したか),④身体動作,⑤身体接触(登場人物1が,登場人物2のどの身体部位を触ったか),⑥複数の人物が登場するといった6種類の内容を予定していた。しかし,更なる文献レビューを行った結果,ASD者は「自己」と関連付けて物事を記憶する事が困難であるため,自己の体験に関する記憶(自伝的記憶)の特性が,健常者と異なるという点の重要性を再認識し,研究1では,6種類の記銘材料の見直しを行い,⑦「自己」と関連する記憶を追加する事を現在検討中である。今後,記銘材料を追加したことによる課題数,実験時間の調整を行い,参加者の負担にならない適切なものを設定し,データ収集へと移る予定をしている。2点目として,休職(産休)期間があったことがあげられる。平成27年度11月末から平成28年度2月にかけ,産前産後休業をとったため,データ収集に遅れが生じている。また,平成28年度4月からの所属の変更に伴い,6月以降にデータ収集を開始する予定で現在進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究1については,記銘材料の再検討を終え,今後データ収集の段階に移行する予定である。同時に研究2についての準備を進め,データ収集を実施する。また,レビュー論文については,平成28年度中に投稿する事を目標とし,さらに執筆を進める。また,平成28年度9月に,東海地方の実務家(検察,警察,児童相談所職員,弁護士など)を対象とした司法面接研修(2日間)の2回目を実施する予定である。この研修の中で,「発達障害者を対象とした聴き取り」に関するプログラムを設け,レビュー論文で取り上げた内容について実務家への情報提供を行う。また、学会発表,論文投稿などの成果の発表も合わせて、積極的に行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の未使用額が生じた主な理由として、研究1のデータ収集が遅れているため,研究参加者への謝金,分析のための費用が未執行であったことがあげられる。
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次年度使用額の使用計画 |
研究1では予定通り,実験参加者や実験補助者への謝礼額として12万円程度を使用する。また,データ収集が遅れていることにより,得られた面接データの書き起こし,コーディング作業での,2名分の実験補助者への謝金として30万円程度を使用する。書籍購入費として7万円程度を使用する。
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