自閉症スペクトラム障害(ASD)のメカニズムに関して、従来、心の理論や実行機能などの認知機能の障害によって説明を試みる理論が支配的であったが、近年、具体的な教示のもとではASD児者の社会的認知の障害が見られなくなるという報告が相次ぎ、社会的動機づけや認知-感情相互作用の特異性をASDの中核的要素と位置づける理論が関心を集めている。行動研究においては、ASD児者が、恐怖、嫌悪、怒りなどの“基本感情”よりも、複雑な情報の統合を必要とするユーモア、道徳感情、愛着感情などの“社会的感情”において特異性を示すことが明らかになっているが、ASD児者の社会的感情に関する機能的脳画像研究の報告はほとんどない。本研究は、ASD者における脳内の認知-感情ネットワークの特異性について、ユーモア感情を切り口として検討を行った。 最終年度は、ASD者および定型発達者を対象とした実験データの解析作業を行った。ASD者と定型発達者の間で、ユーモアとその3つの認知的要因に関わる脳領域の活動や相互の構造的・機能的結合性にどのような差異が見られるかを検討した。一般線形モデルに基づき、各認知的要因の操作にともなうBOLD信号の変化を解析し、各プロセスに関わる脳領域を同定した上で、定型発達者とASD者で、これらの脳領域の活動を比較した。ASD者における脳活動や結合性の“低さ”に加え、“高さ”にも着目し、障害を補償するネットワークの存在についても検証した。
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