私たちは他者を援助し、物を分け与え、悲しんでいる人がいれば慰め、何か目標を達成するために協力し合う。このような向社会的行動はごく身近な人に対してだけではなく、それほど親しくない人に対してもみられる。互いに助け合う社会を大規模な集団で形成するのは、他の動物種と比べてヒトの社会の大きな特徴である。このような協力的な社会を形成・維持するためには、相手の特徴や相手の状況に応じた向社会的行動が不可欠である。本研究では幼児が相手の共同意図に基づいた協力行動を示すのかを検討した。自己と他者の間に共同意図 (joint intention) が形成されているということは、他者と目標を共有し、目標を共有していることを理解していることを意味する。幼児同士のやり取りにおいて共同意図に基づいた協力関係がいかに構築されていくのか、また相手に共同意図がない状況での抑制的協力行動がどのように発達するのかを明らかにすることを目的とした。4・5歳児69名を対象に、相手の意図を考慮した抑制的協力行動の理解を測る課題を行った結果、相手の「一人で作りたい」という意図が明示されていても「見守る」という抑制的協力行動を選択した児はわずかであった。抑制的協力行動と他者の信念理解との関連を分析すると、他者の信念理解が抑制的協力行動の選択に影響していた。これらの結果から、相手の意図を考慮して抑制的協力行動を選択する傾向は4・5歳頃から徐々に発達し始めること、その発達には「心の理論」が影響している可能性が考えられた。
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