研究課題/領域番号 |
15K17274
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研究機関 | 別府大学短期大学部 |
研究代表者 |
向井 隆久 別府大学短期大学部, その他部局等, 准教授 (30622237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 問い生成 / 問題発見 / 文脈構成力 / 高等教育 / 大学生 |
研究実績の概要 |
平成27年度の研究により,大学生の授業における問い生成について,逆算的な文脈構成力(問いを見出すために,講義内容のどこに注目し,どのように考えを展開(文脈構成)を高める訓練を実施することで,問い生成力(問題発見力)が向上することが示された。他方,逆算的文脈構成力とは別に,問い生成のパフォーマンスを高めたものとして,問い生成の仕方に関するマニュアル的(宣言的)な情報(ヒント)の獲得の可能性が考えられた。 そこで平成28年度は,授業内の活動や授業外での訓練活動などで,学生が問い生成のマニュアル的情報を獲得している程度と,問い生成のパフォーマンスとの関連を調査した。大学生34名を対象とし,問い生成のマニュアル的情報の獲得の程度や,実際に問いを考える時の考え方・やり方を内省報告によって調べた調査の結果,問い生成力の高い群とそうでない群との間に,明示的に報告された問いの考え方に大きな違いは見られず,問い生成のパフォーマンスが高い者が,問いを考えるための特別なマニュアル的ヒントを得ているわけではないことが示唆された。また問い生成のためのヒントを得ている程度と問い生成のパフォーマンスとの関係は,文脈構成力が高い者は,ヒントを得ることで問い生成のパフォーマンスが向上するが,文脈構成力が低い者は,ヒントを得ても問い生成のパフォーマンスに繋がらないことが示唆された。これらの結果は,現在,論文化に向けて執筆中である。 平成28年度の研究計画の1つであった「日常生活での問い」の調査・分析については,対象者の人数を増やしながら調査・分析を継続し,日常において問いが生成される際の文脈と授業において問いを生成する際の文脈の特徴の違いについて,幾つかの仮説が生成されている。さらに,「展望的な文脈構成力と問い生成力との関係の検証」についてはデータ収集が完了し,分析の段階に入っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ここまで逆算的文脈構成力と問い生成力との因果関係の検証については,比較的スムーズに進み,因果関係を示唆する結果が得られている。また今年度,当初の計画にはなかった,問い生成のマニュアル的なヒントと問い生成のパフォーマンスとの関係についても,分析を実施することができた。その結果,問い生成のヒントが問い生成のパフォーマンスにつながるために,文脈構成力が担っている役割の可能性が新たに明らかになった。 一方で,平成28年度は所属研究機関が変わり,予定していた研究フィールド,調査対象者,研究協力者などを変更する必要が生じた。それに伴い,当初の研究計画を修正することになった。そのため,「日常生活での問い」の調査・分析や,「展望的な文脈構成力と問い生成力との関係の検証」に関する分析が当初予定されていたよりも若干遅れている。しかし,現在の所属機関での研究環境も整い,遅れは十分に取り戻せる見込みである。またこれまでは使用できなかったeラーニングシステムが新たに使用可能になり,現在はこれを用いて,問い生成に関するデータ収集を行っている。これにより,授業場面での問い生成と日常場面での問い生成との対比の分析をより詳細に行える見込みがあり,この点については,当初予定していたよりも発展した研究成果が得られる可能性があるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方向性としては,①日常生活における問いの分析及び授業場面における問いとの対比分析と②「展望的な文脈構成力と問い生成力との関係の検証」,③これまでの成果の公表(学会発表,論文化)である。①については,現在分析中のデータに加えて,新たに調査対象者を増やして分析・解釈(仮説生成)の精度を上げていく。大学の授業における問題発見(問い生成)の意味や特徴,困難さの原因を検討するために,学生が日常生活の中で慣れ親しんでいる問いの形式・特徴を質的に分析し,大学の講義を受けて生成する問いと,どういった側面が異なるのかを比較検討する。ここまで調査協力者へのインタビューによって,日常生活ではどういった場面で問いが生成されやすいのか,本人が状況・文脈をどのように捉えているのかなどについて,いつかの仮説が生成されているため,サンプル数を増やしながら仮説の精度や妥当性を高めることを目指す。また問い生成を行う授業に参加している学生を対象に,授業内で生成される問いと日常生活で生成される問いを同一個人内で同時並行的にデータ取集し,対応関係をより詳しく分析する予定である。 ②については,すでにデータが得られており,展望的文脈構成力の評価基準を作成するための予備分析(質的分析)を実行中である。この予備分析に基づいて評価基準を早急に完成させる。評価は複雑なものになることが予想されるため,評価の客観性を高めるため,複数の評価者による展望的文脈構成力の評価を行い,展望的文脈構成力と問い生成力との因果関係の検証を行う(データ分析協力者を募る)。 ③について,これまでも学会などで成果を発表してきているが,まだ未発表の成果について発表していく。また平成29年度は最終年度であるため,論文化できていないものについては論文化の作業をすすめ,より多くの成果を公表できるよう努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は所属研究機関が変わったことで,予定していた研究フィールド,調査対象者,研究協力者などを変更する必要が生じ,予算執行計画を修正することになった。特に日常生活における問いのインタビュー調査については,次年度に,より生産的なデータ収集の機会が得られたため,そちらでより多くのインタビュー調査を実施することにし,インタビュー調査・分析協力の謝金・人件費の支出をできるだけ,次年度に繰り越すようにした。 また「日常生活での問い」と「展望的な文脈構成力」の調査・分析が遅れ,学会などで成果発表するまでに至らなかったことにより,次年度に成果発表するための旅費を確保しておく必要があった。さらにインタビューデータや展望的文脈構成力の質的分析用のテキストマイニングソフト(30万円相当)や,分析協力者を募り使用するためのパソコンやモニターの購入費も作業が次年度になるため予算を繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,授業場面での問い生成と日常場面での問い生成との対比に関するデータ収集・分析をより詳細に行える見込みがあり,それに応じてインタビュー調査・質的分析を実施する予定である。「展望的な文脈構成力」の調査・分析についても分析協力者を得て,分析を進展させるため,そうした作業に謝金・人件費を使用する。また分析のためのテキストマイニングソフト,パソコンやモニターを物品費で購入しする。さらに,ここまで分析を完了している調査と,次年度分析を完了させる予定の調査について,成果を発表するための費用として旅費などを使用する。
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