平成29年度は、主に以下の2点について調査・検証した。1. 大学の授業における問い生成の困難さの原因を検討するために,大学の講義で学生が生成した問いと、日常生活で生成した問いの違いを分析した。日常の問い2358個(大学生47名分),講義での問い2087個(大学生276名分)を対象に比較分析した結果,日常の問いは「なぜ」の問いが圧倒的に高い割合を占め、それに対し、講義では「どちら」や「どのように(どう)」を問う問いの割合や,仮説を生成するような問い(末尾が「ではないのか」)の割合が日常よりもかなり高いことが明らかになった。さらにインタビュー調査から、日常では問いを発する意義(恩恵)を本人が把握しやすい状況・文脈で,問いが生成されていることも示唆された。これらの結果から、講義における問い生成は、日常と比べると主要な問いの形式が異なり、学生自身が問いを発する意義(恩恵)を把握しにくい状況であったり、仮説生成的な問いが求められるような状況・雰囲気があることが問い生成の困難さの背景にあることが考えられた。 2.上記の結果からは,問いの意義を見出す力(問い生成後の文脈を展開する力:展望的文脈構成力)を高めることが問い生成を促進すると考え,展望的文脈構成力のトレーニング課題を作成し(e-Learningを用いた授業外課題),効果を検証した。講義期間前半で深い問いの生成率が5割未満の大学生66名(介入群:21名,統制群:45名)を対象とした。展望的文脈構成力のトレーニング課題(2週間で4~5問×5セット)を実施した介入群と,実施しなかった統制群の深い問い生成率を比較した結果,講義期間前期では両群の問い生成率に差はなかったが,後期において介入群の方が有意に深い問い生成率が高いことが示された(p<.05)。以上の結果から,展望的な文脈構成力を育成する介入が問い生成力を高めることが示唆された。
|