幼児期の認知と社会性の発達についての3年間の縦断研究が完了した。本研究では,他者の心を理解すること(認知)と他者と適切に関わること(社会性)がどのように関連しあって発達していくのか,そのダイナミックなプロセスを描出するために,これらの能力が大きく発達する幼児期の子どもを対象とした研究を行った。各年度とも,心の理論を中心として,心の理論の発達を促す要因,心の理論の発達がもたらす帰結について,種々の実験を通して検討してきた。縦断データの分析はこれから着手するため,明確な結論を述べることはできないが,3年分のデータは約20名,年少から年中にかけての縦断データは約40名,年中から年長にかけての縦断データは約70名分,得ることができた(一部に重複あり)。 今年度の活動としては,前年度から継続の実験を実施するとともに,これまでの研究成果をまとめて学会発表を行った。また,今年度の実験については来年度の学会で発表するべく,準備を進めている。 これまでの横断データの分析から,認知機能,心の理論,社会性はいずれも年齢が上がるとともに成績が向上するが,年齢の影響を取り除いた後でもなお,(1)認知(実行機能,他者の感情の理解)の発達が心の理論の発達を促すこと,(2)手がかりが明確な場合は認知能力や心の理論の発達とは無関連に向社会的行動(判断)がなされるが,手がかりがあいまいな場合は認知能力や心の理論が発達しているほど,状況に応じた向社会的行動(判断)が生起しやすいことが示された。しかしながら,今年度収集した横断データにおいては「認知の発達が心の理論の発達を促す」という部分が再現されず,これまでの研究知見を整理するにあたって慎重な検討が必要であることが示唆された。縦断データの分析を通して,幼児期の認知と社会性の発達の様相を詳細に検討していきたい。
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