本研究の目的は,子どもと教師の両方の視点から「ほめ」に対する認識の類似点や相違点を整理し,両者にとって効果的であると感じられる学習への動機づけを高める「ほめ」を明らかにすることである。 2015年度は,児童と小学校教師を対象とした質問紙調査を行った。その結果,クラスメイトの前でほめるなどのほめ方については,児童よりも教師の方が動機づけを高めると評定していた。一方,難しいことができたときにほめるなどのほめ方については,児童と教師の評定に差はみられなかった。 今年度は,2015年度に行った質問紙調査において,児童と教師の間で認識に違いがみられたほめ方を取り上げ,インタビュー調査を行った。児童と教師の報告内容を比較したところ,ほめられた際の感情については,学年が上がるにつれてネガティブ・アンビバレントな感情になるといった点で,両者の報告は共通していた。また,教師のほめる意図については,児童は「先生は目指すべき状態を示すためにクラスメイトの前でほめる」と回答し,教師は「特に高学年の児童の場合,見本の提示に加え,他の児童が気付いていないその児童のよさに気付かせるためにクラスメイトの前でほめる」と回答するなどの相違がみられた。また,中・高学年の児童は「先生はやる気になってほしいからできなかった勉強ができたときにほめる」,教師は「学年が上がると挫折経験も増えるので,ほめることで不安感を減らし,できていることに目を向けさせるためにほめる」などの違いもみられた。 これらのことから,教師は,教師と児童の「ほめ」の認識にはずれがあることを意識し,クラスメイトの前で児童をほめるときは,出来ばえに加えて児童の能力や個性にも言及したり,できなかったことができた児童をほめるときには,達成自体へのコメントと今後への期待に関するコメントのバランスに気を付けるなどの対応の必要性が指摘できる。
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