本研究の目的は、小学校・中学校・高等学校における性同一性障害者/性別違和の児童・生徒(当事者)への支援の方法について、①当事者-教員の間、②当事者-保護者-教員の間、③当事者-他生徒の間の3つのコミュニケーションの側面から検討を行い、現場で有用な支援モデルの構築を試みることである。最終年度には、中学校教員(副校長)への質問紙調査・インタビュー、中学校における「人権教育をベースとした性の多様性教育」授業における観察、ジェンダーをテーマとした本(セクシュアルマイノリティの章を含む)の輪読実践や映画の視聴を通じた学生(大学生)間の対話、学び合い過程に関する分析を行った。新型コロナウイルスの感染拡大状況により、研究の見直しや調査対象や方法の変更が迫られたが、最終年度の成果をもって本研究の目的である性的マイノリティ当事者をめぐるコミュニケーション・モデル構築に必要なデータの大部分を収集することができた。 研究期間全体を通じた成果として、第1に、①当事者-教員の間、②当事者-保護者-教員の間、③当事者-他生徒の間の3つのコミュニケーションが成立するためには、学校や授業という枠組みが必要であることが明らかになった。そして「現時点で、正しい知識をお互いが同程度に持っている」ということよりも、二者、三者、クラス集団といった「共同体になっていくための未来に向けた語りを持っている」ということが重要であった。第2に、当事者の心のよりどころとなるコミュニケーションは、実在の身近な人物の発言のみならず、様々な媒体(小説、メディア)における人物やキャラクターにまで及んだ。これらが意味するのは、コミュニケーションには複数の文化的リソースがあり、コミュニケーションの内容(何をコミュニケーションするか)そのものよりも、コミュニケーションの形式(いかにコミュニケーションするか)や場が重要だということである。
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