研究課題/領域番号 |
15K17282
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研究機関 | 聖心女子大学 |
研究代表者 |
岸本 健 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (20550958)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 指さし / 1歳齢児 / 眼球運動 / アイトラッカー / 言語的応答 / 言語獲得 |
研究実績の概要 |
1歳齢児は指さしを産出すると,その直後に養育者から向けられる言語的説明を顕著に学習する。これを可能にしている心理的メカニズムを明らかにするために,本申請課題では,1歳齢児の指さし直後における1歳齢児と養育者の心的状態を眼球運動から直接解明することを目的として実施された。本年度では,第1に,1歳齢児の眼球運動を計測するために,実際にアイトラッカーを用いての予備実験を実施した。その結果,アイトラッカーを搭載したパソコンに投影された刺激に対して1歳齢児が指さしを向けること,およびそれを撮影できることが明らかになったものの,眼球運動を計測するための方法に問題があることがわかった。具体的には,1歳齢児が指さしを産出する際に移動するなどの行動を伴わせる場合が多く,モニターと1歳齢児との距離に変化が生じてしまうため,アイトラッカーによって眼球運動を計測できなかった。第2に,1歳齢児の指さしと,その直後に生じる養育者からの言語的説明との関連性をさらに検討するために,縦断的な観察を実施した。その結果,1歳齢児の指さしは言語的な説明の伴った養育者の指さし産出を促すことが確認された。さらに,縦断的な観察の結果から,養育者による言語的説明の伴った指さしが1歳齢児の指さし産出の直後になされた場合,その半年後の幼児の指さし産出の頻度が増加していることが示された。この結果は,1歳齢児の指さしが,その指さしの向けられた対象に関する,養育者による指さしの伴った丁寧な説明を引き出すこと,さらにそういった養育者からの働きかけが,幼児の指さし産出をさらに増加させることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的の根幹である,指さし産出時における1歳齢児の眼球運動を計測する手法が,当初の予想よりも大幅に困難であることが判明したため。スクリーンに投影された映像に対し,1歳齢児が指さしを産出することは確認できた。しかし,眼球運動をアイトラッカーによって計測するためには,その計測の対象者が静止している必要がある。指さしを産出する際,1歳齢児は興奮を伴った状態で立ち上がるなどするため,眼球運動の計測に困難が生じた。1歳齢児による指さしの産出時に,当該の1歳齢時の眼球運動を計測できる手法を検討する必要が新たに生じたため,進捗に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように,1歳齢児の指さしの産出時における眼球運動を計測するためには,1歳齢児が指さしを産出した際にも,アイトラッカーの搭載されたモニターの前で静止した状態にあることが求められる。本年度は早急に,これを達成できる手法を提案し,検討する必要がある。2016年度の研究において,養育者によって1歳齢児を抱っこしてもらい,1歳齢児とコミュニケーションを図ってもらうことが,1歳齢児の指さし産出を促進することが示された。これを応用し,養育者に抱っこしてもらった状態での1歳齢児の指さし産出をアイトラッカーによって計測することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,アイトラッカーの設置されたモニターの前で一定時間,1歳齢児に静止してもらう必要がある。予備実験の結果,指さしを産出する際の乳幼児に,モニター前で静止してもらうことが困難であることが判明した。これを受け,従来の研究計画を中断し,アイトラッカーの設置されたモニター前で,指さし産出時の1歳齢児に静止してもらう手法を検討する必要が生じた。適切な手法を考案し,精緻なデータを得るために,補助事業期間を延長したため,次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
1歳齢児を養育者に抱っこしてもらい,その状態での1歳齢児の眼球運動を計測する予備実験を行う。予備実験が順調に進行すれば,本実験を開始する。この一連のプロセスに伴う機器の購入,および予備実験の研究協力者に対する謝礼,さらに分析ソフトの購入に次年度使用額を充てる計画である。
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