平成30年度は,保育・教育現場における子どもに対する言葉かけの実態を明らかにするために,保育者・教師計127名を対象に質問紙調査を行った。質問紙においては,架空の子どもが成功・失敗を経験した際に,その子どもに対してどのように言葉かけをするかを尋ねた。その際,子どもの特性を操作し,保育者・教師が子どもの特性の個人差を踏まえて言葉かけをいかに変化させているかについて検討した。また,保育者・教師自身のパーソナリティや知能観が,言葉かけにどのように影響しているかについても検討を行った。 その結果,子どもの自尊心の高低によって成功場面での褒め方に違いがあること,子どもの忍耐力の高低によって失敗場面での励まし方に違いがあることが示された。さらに,保育者・教師のパーソナリティ及び知能観と失敗場面での言葉かけの間に関連が認められ,勤勉性が高い者ほど,失敗を指摘する際にプロセスに言及すること(「がんばりが足りなかったね」等),固定的な知能観を持つ者ほど,失敗を指摘する際に人物の側面に言及すること(「あなたにはちょっと難しかったね」等)が明らかになった。さらに,保育・教育の経験年数15年以上のベテラン群は,経験年数7年未満の若手群,経験年数7年以上15年未満の中堅群と比べ,場面に応じたより具体的な言葉かけを行っていることが示された。 なお,本研究課題の中では,失敗場面でのほめ言葉(「すごいね」等)に対する幼児・児童の反応についての検討も行ってきた(平成27年度,28年度)。最終年度の質問紙調査の結果からは,保育者・教師が,実際に失敗場面で「すごいね」という肯定的な言葉かけをしばしば行っていることが明らかになり,これまでの実験的研究で扱ってきた仮想場面の妥当性が示された。
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