研究課題
肥満症患者14名,健常者28名に対する頭部MRI検査(機能画像,形態画像)から,1)肥満患者12名,健常者27名を対象に食物画像により惹起した渇望感を認知的再評価,マインドフルネスにより制御した効果とその脳機能を検証した。検査は空腹状態で実施し,主観的渇望感はordinate scaleにより定量化した(1:全く感じない~8:非常に感じる)。また,2)肥満症患者14名,健常者26名を対象にvoxel-based morphometryにより灰白質容量の差異を検証した。健常群は食物画像に対してマインドフルネスにより認知的再評価と同様に渇望感の有意な減少が認められたが,肥満群ではそのような減少効果は認められなかった。脳機能画像の結果では,健常群はマインドフルネスにより島皮質や中心後回などの活動が減弱し,認知的再評価では腹外側前頭前野や補足運動野などの活動が増加した。一方,肥満群は認知的再評価により中前頭回の活動増加を認めたが,マインドフルネスによる有意な賦活はなかった。脳形態画像の結果では,肥満群は健常群に比べ,島皮質,前帯状皮質の灰白質量が有意に低値であり,中側頭極,下前頭回眼窩部の灰白質量が有意に高値であった。マインドフルネスはトップダウンに依存しない渇望の調整が働き,一方認知的再評価ではトップダウン型の抑制作用により渇望が調整されたと考えられる。肥満患者は健常者とは異なり,即時的な方略では脳が食渇望を制御するモードに入りにくいため,渇望の調整が上手くなされないことが考えられる。また肥満症患者では内部感覚や情動処理に関わる領域の灰白質の変化があり,病態に関係している可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画していた肥満症患者の食制御不全の神経基盤の解明を脳機能画像と脳形態画像の解析により実施し,次年度の新たな認知行動療法の開発につながるマインドフルネスの一定の効果とその脳機能を示唆することができた。肥満症患者の症例数がまだ少ないところであるが,対象者のリクルートは継続しており,また今後治療プログラム開発も開始するところであり、達成度としてはおおむね順調に進展しているといえる。
平成28年度は,平成27年度に引き続き,肥満症者を対象としたMRI検査の症例を増やし,神経基盤検証の精度を高める。さらにこれと並行して,マインドフルネスに基づく食欲制御プログラムのプロトタイプを開発し,非臨床群の過食者や過体重者20例を対象にパイロット研究を遂行する。これによりプログラムの効果を検証し,最終年度に実施予定の本試験に向け,プログラムを洗練させる。
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