本研究では、自殺のリスクファクターとして知られている大うつ病性障害の中でも、薬物治療が奏功しない治療抵抗性うつ病患者を対象とした集団プログラムの開発とその評価を行うことを第一の目的とした。また、自己批判や恥感情と抑うつ症状等の精神的健康の関連をアナログ研究を用いて明らかにすることを第二の目的とした。 集団プログラムの開発にあたってはまず、既存の集団認知行動療法プログラムの中にコンパッションを用いたセッションを取り入れ、安全性と実現可能性の確認を行った。その結果、治療前後で十分な症状の改善が見られ、我が国におけるコンパッションを用いた集団心理療法の安全性と実現可能性が示された。この結果を受け、コンパッション・フォーカスト・セラピーによるうつ病患者へのNaturalistic Studyを行い、症例の報告を行った。さらに、集団コンパッション・フォーカスト・セラピープログラムの開発を行い、ランダム化比較試験による安全性と実現可能性の検証を行った。その結果、高い効果量が示され、重篤な有害事象なども報告されなかった。これらの結果から、難治性うつ病に対する集団コンパッション・フォーカスト・セラピープログラムについて一定の効果が示されたと考えられる。 また、自己批判及び恥に関しては、日英を中心とした国際共同研究を実施し、精神的健康への悪影響を明らかにすることが出来た。さらに測定指標として、日本語版が未作成であったFears of Compassion ScalesやThe Compassionate Engagement and Action Scalesの開発を行い、十分な信頼性と妥当性を示すことが出来た。これらの結果から、自己批判や恥が持つ精神的健康への影響の一端が解明されたこと、今後の研究のための測定指標の開発が行われたことは有意義であると考えられる。
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