研究実績の概要 |
強迫性障害は、意志とは無関係に繰り返し頭に浮かび不快感を生じさせる強迫観念と、強迫観念を振り払うため繰り返し行う強迫行為からなる(APA, 1994)。世界保健機構によれば、強迫性障害は身体疾患を含む全ての疾患の中で,生活を破綻させる疾患の第10 位とされている(WHO, 1999)。強迫性障害の認知理論によれば、強迫性障害は過剰な責任感といった認知的要因によって維持・悪化されている(Ishikawa et al., 2014)。なかでも汚染恐怖(不潔恐怖)による強迫性障害は、「自分(または家族)に汚れがついているかもしれない」という強迫観念と,汚れを除去するために過度な洗浄行為を繰り返してしまう強迫行為(洗浄強迫)が主症状である。強迫性障害の患者の約半数は、汚染恐怖の症状を持つと報告されている(Rasmussen, 1992)。申請者は、実験と質問紙調査によって、汚染恐怖を悪化させる要因を検討した。 実験)汚れた手袋を実験参加者(健常大学生)に提示し、汚れた手袋を身に着けてもらう実験を行った。その結果、嫌悪感受性や過剰な責任感が高い大学生は、汚れた手袋を身に着けると高い汚染恐怖を感じることが示された。さらに魔術的思考の高さは、手袋を装着した際に生じる変身恐怖(Fear of Morphing)を予測する可能性があると示唆された。 調査)大学生を対象に質問紙調査を行った。その結果、不潔恐怖のサブタイプである変身恐怖を測定する尺度(日本語版変身恐怖尺度)の妥当性が検証された。さらに階層的重回帰分析の結果、魔術的思考や対人不信感といった認知的要因が、精神的汚染や変身恐怖を予測することが示された。
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