研究実績の概要 |
最終年度の研究では、強迫性障害における汚染恐怖の一つである変身恐怖に着目し,その認知行動モデルの検証をおこなった。変身恐怖とは,嫌悪する人物によって汚染されたり,その人物の特性が自分にうつったりしてしまうのではないかという強迫観念にとらわれ,その強迫観念を中和するための強迫行為(e.g., 洗浄行為)が止められなくなる症状である。変身恐怖は,強迫症における精神的汚染のサブタイプとして主に欧米において研究されてきた。本研究では,大学生および臨床患者を対象にした質問紙調査をおこない,変身恐怖の症状の程度を測定する尺度である変身恐怖尺度の信頼性・妥当性の検証をおこなった。さらに変身恐怖を説明する認知的要因についても検討をおこなった。 学生調査では大学生226名,患者調査では臨床患者43名(強迫症群17名,不安症群16名,うつ病群10名)が質問紙調査に参加した。確認的因子分析の結果,変身恐怖尺度日本語版は原著と同様に1因子構造を示した。また変身恐怖尺度日本語版は十分な内的整合性を示し,学生調査では収束的妥当性と弁別的妥当性,患者調査では収束的妥当性が確認された。さらに臨床患者を対象にした調査をおこない,群間比較の結果,強迫症群の変身恐怖尺度得点は健常統制群より高くなり,変身恐怖尺度日本語版によって両群を弁別できることがしめされた。また階層的重回帰分析の結果から,性別,年齢,不安,抑うつ症状,嫌悪感受性の影響を統制しても,思考と行為の混同が変身恐怖を予測することがいずれの調査でも確認された。よって,思考と行為の混同は,変身恐怖を悪化させる認知的要因となることが示された。この研究結果から,思考と混同にアプローチする認知行動療法が,変身恐怖による強迫症を改善させるのに有効であるという臨床的考察を示した。
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