研究実績の概要 |
本研究の目的は、東日本大震災により長期避難生活を余儀なくされている住民(飯舘村を中心)の心理社会的影響を評価し、得られた知見をもとに心理社会的支 援のあり方を検討するものである。初年度と二年目は量的な調査を行い、1)精神的健康度の現状、2)要介護認定のリスク要因について、震災前後のコホート研究のデザインで関連要因を分析した。
その結果、1)震災前に比べて震災後に抑うつ傾向の高齢者が増加したこと、そして抑うつ傾向が生じる要因として、居住環境要因が関連していることが明らかになった。つまり、仮設住宅よりも借り上げ住宅に避難している住民の方が精神的健康度は低く、ソーシャルサポートを受けにくい傾向がわかった。2)震災後の要 介護認定発生は初年度に「軽度認定」が多く発生していることがわかった。避難によって身体機能が低下したこと、あるいは隣り近所のサポートが得られにくくなり、サービスを利用するニーズが高まったことが考えられる。また。震災前に「運動器の機能向上」「認知症予防・支援」「うつ予防・支援」に該当していた ものが該当しないものに比べて 、より震災後に要介護認定を受けていることが示されるとともに、震災後に行われた運動教室に参加することは、部分的に要介 護リスク(心理的要因 )を軽減することが示された。以上のことから、震災直後に、生活機能が低下しやすい高齢者のスクリーニングを行い、適切なサービスにつなげる必要性が示唆された。
最終年度は、得られた成果を村保健師に報告するとともに、村の健康増進計画の「こころの健康」と「高齢者保健」の分野に反映した(第四次飯舘村健康増進計画)。これらの成果は、国内外の学会報告で報告するとともに、広く国内の雑誌(黒田. 公衆衛生,2017)と、国際誌(Kuroda et al, BMJ open, 2017)それぞれに掲載され、広く知見を共有できたと考えられる。
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