認知症対策のひとつとして、認知症有病率が高い85歳以上の超高齢者の認知機能を正確に評価し、適切な医療につなげていくことは重要である。しかし、国内で一般的に利用されている認知機能検査を用いて超高齢者を対象とした研究は限られていることから、本研究では、日常生活動作が自立した健常な85歳以上の超高齢者らの各種認知機能検査の成績を、健常な若年高齢者や超高齢アルツハイマー病(AD)患者らの成績と比較することで、超高齢者の認知機能の特徴や、臨床現場で利用される各種認知機能検査の基準値を示し、超高齢者における認知機能の低下をスクリーニングするのに役立つ指標を明らかにすることを目的とした。 119例(前期高齢健常群56名、後期高齢健常群24名、超高齢健常群12名、超高齢AD群27名)を対象に、各種認知機能検査 (MMSE、MoCA、CDT、ADAS-J cog.、RBMT、カテゴリー流暢性、文字流暢性)を実施し、群間の成績を比較した結果、MMSEのみならずADAS-J cog.やRBMTなどのより難易度が高い認知機能検査でも超高齢健常群は前期・後期高齢健常群とほぼ同程度の成績が維持されることが示された。また、ROC分析によって、超高齢健常群と超高齢AD群を対象に各種認知機能検査の最適なカットオフ得点を設定して感度と特異度を明らかにした結果、超高齢健常群と超高齢AD群において、MMSEのカットオフ値は一般的な値とほぼ同じであり、先行研究と一致する結果であった。一方、MoCA 、RBMTの標準プロフィール点のカットオフ値は一般的に知られている基準値より低いことが示され、超高齢者を対象にこれらの検査を実施する際には留意する必要がある。ただし、本研究期間でリクルートできた超高齢健常群の対象者数が少ないことから、さらなる知見の蓄積が必要である。本結果は2019年第2回日本老年臨床心理学会にて発表した。
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