研究課題/領域番号 |
15K17302
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
金澤 潤一郎 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (80632489)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生体腎移植 / レシピエント / ドナー / メンタルヘルス / 認知行動理論 |
研究実績の概要 |
生体腎移植では移植手術による腎機能の改善など身体的治療であるが、腎不全患者には抑うつ症状などメンタルヘルスの悪化による生活の質の低下も指摘されている。またメンタルヘルスの悪化は生体腎移植後の服薬アドヒアランスにも関連するため、生活の質だけでなく、身体症状にも影響することが先行研究で示されている。そこで本研究では、生体腎移植患者(レシピエント、ドナー)のメンタルヘルスに関して認知行動理論を用いて検討することを目的としている。 本年度は、当該研究課題開始以前から収集していた約150名の生体腎移植患者への質問紙調査に加え、新たに約20名の患者から質問紙への回答を得た。これまでの結果からは、年齢や行動的対処法ではなく、生体腎移植というライフイベントに対する認知的評価(物事の受け止め方)が気分状態や抑うつ症状に影響することを明らかにしている。 また、質問紙への回答を得るだけでなく、各人への個別面談も継続しており、その面談の中で移植の意思の第3者確認を行いながら、生体腎移植を受ける患者のレシピエントとドナーの双方の感情面、身体面、行動面の確認とともに、実際に移植を受けるにあたっての葛藤や心情の変化などを傾聴しながらお聞きしている。 次年度は術前の生体腎移植患者への心理療法に関する治療構成要素を吟味しつつ、心理療法プログラムを開発する予定である。そのためにこれまでの質問紙調査で明らかにされた要因だけでなく、面談で得た貴重な患者の声も踏まえた心理療法プログラムの開発を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は心理士チームを結成し、研究協力者である生体腎移植患者の全員と個別面談を実施しながらデータ収集を実施している。本年度は心理士チームを円滑に組織することができ、生体腎移植患者との面談も非常にスムーズに進めることができた。生体腎移植を実施する患者の数や手術予定に上限があるために、計画以上に順調に進展することは不可能であるが、予定どおりに本研究を進めることができた。 生体腎移植を実施する病院は本学以外の施設となる。そのため当病院との連携も本研究の推進に必須となる。すでに数年に渡り連携を積み重ねてきた施設であることもあり、この点に関しても問題なく円滑に実施することができた。 研究という観点で考えると、学会発表を中心に複数の新たな知見を提供することができた。しかし生体腎移植に関する生物学的データの入手法など今後の課題も明らかとなった。臨床に根差した研究課題ではあるものの、今後は生物学的データの収集が完了次第、国内外の論文執筆など学際的な活動の配分をさらに増やしていく必要がある。そのために必要な先行研究の精読に関しても、心理士チームで研究会を組織し、継続的に議論を重ねてきた。また学外の当該分野の研究者との交流も積極的に行っている。
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今後の研究の推進方策 |
1年目終了時に心理士チームの大半が異動等で直接的に継続して研究に携わることが困難になる事態が発生した。そこで2年目当初から、心理士チームの再編と教育に努めている。その成果もあり、数カ月をかけて心理士チームの再編が完了した。今後は、これまで同様に生体腎移植への質問紙調査と個人面談を継続する予定である。 2年目にはこれまでの計画に加えて、心理療法プログラムの開発も計画している。そのためにも、これまでの質問紙調査で得られたデータ解析を精緻化し、論文や学会発表などでの公表をさらに積極的に行いつつ、先行研究の精読を継続した上で、治療構成要素の選定を行う必要がある。 さらに2年目には社会への発信の手段として、移植コーディネーター(看護師)、申請者(臨床心理士)、移植医(医師)を講師とした専門家・市民向けの講演会の実施も予定している。そのための日程調整や会場管理などを早急に行い、研究に加えて、生体腎移植のメンタルヘルスに関する情報の社会への発信も円滑に実施することができるための準備をする必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題を実施する以前から、本研究は継続的に進展してきた。そのため物品(主に刊行されている質問紙等)の残部を使用することができたため、本年度の物品費を節約することができた。しかし次年度は新たに物品を購入する必要があること、また本年度の結果を踏まえた新たな質問紙や検査用具の購入も予定しているが、その選定を研究会を開催して熟慮する必要があるために次年度予算として請求する予定である。 また2年目には心理療法プログラムの開発や専門家・市民向けの講演会の予定もあり、会場費や講師料など多額の支出が予想される。そのため、初年度の使用額をできる限り抑えた上で、2年目の計画を円滑に進めることを予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用計画としては、これまで使用していた質問紙(Profile of Mood State短縮版、ベック抑うつ尺度)の購入に加え、吟味した上で、新規の質問紙の購入を予定している。また必要な検査用具の購入(神経心理検査、認知症検査など)も熟考中である。 専門家・市民向けの講演会では、有料の会議場の利用料、講師である移植医や腎移植コーディネーターへの講師料(専門的知識の提供)、講演会運営にかかるスタッフの人件費などを予定している。
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