研究課題/領域番号 |
15K17311
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研究機関 | 東海学園大学 |
研究代表者 |
角田 美華 (樋町美華) 東海学園大学, 人文学部, 准教授 (20550974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ざ瘡 / 社交不安 / 重症度評定 / 表情認知 / アイトラッカー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,ざ瘡を有する者の心理的問題の中でも社交不安に焦点をあて両者の関連性を明らかにすることであった。平成28年度は27年度に引き続き,ざ瘡と社交不安との関連性について明らかにすることを目的として調査を行った。本調査の意義としては,先行研究結果から重要であるとされている「自身にとってのざ瘡の重要度」といった要因を加え調査を行ったことがあげられる。他者から確認される皮膚科症状の研究には,自己の満足度が非常に重要となるため,上記のような視点を加えた本研究はざ瘡を有する者の視点に立った研究といった点において重要である。上記の要因を加え行った調査の結果,ざ瘡を有すると申告した者は全体の7割を超える結果となった。ざ瘡を有する者のみを対象として分析を行ったところ,自身のざ瘡に対する重症度評価が重症である者の方がそうでない者よりも社交不安の一因子である社会的場面でのふるまいに対する恐怖や不安が有意に強くなるといった結果が得られた。さらに,社交不安に関連するとされている非機能的な態度との関係性についても分析を行った結果,非機能的態度の中でも達成動機が社交不安での効力感に強く影響を与えていることが示された。以上の結果は,ざ瘡を有する者にとって自身の重症度評価や非機能的な態度が社会的場面でのふるまいに関連する要因である可能性を示した点では重要な役割を果たしたといえる。 また,平成28年度は調査結果を踏まえながら,ざ瘡を有する者の表情認知が社交不安患者と同様であるか明らかにするため,アイトラッカーを用いた実験も開始している。社交不安患者の視線追跡に関する実験結果は多く示されているが,ざ瘡を有する者についてのデータは全く示されていない。そのため,本実験データが示されることで,ざ瘡に対する新しい支援方法の開発につながると考えられ重要な研究であるといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は,ざ瘡を有する者と対象にアイトラッカーを用いて表情刺激に対する視線追跡実験を終えていることを目的としていたが,以下の理由から現在やや遅れている状況にある。その理由としては,実験で対象となるざ瘡を有する者の認知的・行動的特徴を明らかにするための調査が遅れたことがあげられる。平成27年度から調査は行っていたものの,実験データを分析する際に必要となる要因を明確にすることが困難であったため,調査時間を延長することとなった。調査期間を延長したことにより,ざ瘡の自己評定による重症度,ざ瘡への認知,ざ瘡跡の自覚といった要因がざ瘡を有する者の心理的問題に影響している可能性を示すことができたといえる。現在では,上記のような実験で考慮する必要がある要因が明らかになったため,実験を開始し,すでに実験データを用いた研究発表も予定している。
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今後の研究の推進方策 |
現在は本科研費のみの研究を進めていることから,平成29年度も引き続き本研究を中心に実施していく。今年度は,昨年度末に引き続きアイトラッカーを用いてざ瘡を有する者の表情刺激に対する視線追跡と社交不安の関連性について実験を実施していく。ただし,当初予定は大学生100名を対象とすることを予定していたが,実験を実施する中で拘束時間の長さやそれに伴う対象者の負担を考え,50名程度に変更し,実験を継続することとする。対象者数を減らす点については,社交不安を対象とした類似の先行研究においても50名程度を対象としているものが多いことから,十分であると判断できる。 今年度は,ざ瘡を有する者を対象に実験をすすめ,最終的にはざ瘡を有する者の認知面・行動面の特徴,さらに表情刺激に対する処理といったことをまとめたリーフレットを作成する予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は,平成27年度中に明らかにすることが困難であったざ瘡と社交不安の関連性について自身の重症度評定やざ瘡への認知といった視点から明らかにすることを目的としていた。調査期間延長の結果,先行研究と同様に重症度をどのように見積もるか,またざ瘡とどのように付き合っているのかといった点が心理的問題に影響を及ぼしている可能性が示された。しかし,この調査延長のため実験開始が遅れており,データを分析するまでに至っていなかった。そのため,当初予定していた学会への参加及び発表が見送られた状況にあり,当初予定していた金額との差が生じたと考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,平成28年度末からから実施している実験を継続していく。その際,ざ瘡を有する者の社交不安特徴を表情刺激への視線追跡といった点から結果をまとめつつ国内学問わず多くの学会に参加し公表する予定である。すでに,国際学会での発表を1件準備している最中である。同時に,表情認知の分野について知識や理解を深めるための行動も必要となるため,ここでもさまざまな学会へと参加し,今後必要となる情報を収集することも予定している。また,アイトラッカーを用いた実験を実施するに伴い,対象者への謝礼も必要となることから,平成29年度は予定されている金額の使用が十分に見込まれる。
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