最終年度である平成29年度は,以下の2点を目的としていた。まず,アイトラッカーを用いてざ瘡を有する大学生の表情刺激に対する視線追跡と社交不安の関連性について実験を実施することが1点目の目的であった。さらに,本研究全体の成果であるざ瘡を有する者の認知的・行動的特徴,さらには表情刺激の処理についてまとめたリーフレットを作成し,皮膚科へ送付することを2点目の目的としていた。 平成29年度の実験の結果,ざ瘡を有する者はそうでない者と比較して社交場面に不安を抱き,そして回避するといった行動を選択している者が多いことが明らかとなった。アイトラッカーを用いた表情刺激への視線追跡に関する実験からは,ざ瘡を有する者の中でも回避行動が多い者(高回避者)は回避行動が少ない者(低回避者)よりも怒り表情提示直後はその表情を避けており,しかし時間の経過とともに両者の差は認められず,高回避者の怒り表情への注意が弱まることが示された。さらに,高回避者は低回避者よりも悲しみの表情の眉および目領域の視線移動が少ないことも示され,社交不安患者を対象としたStaugaard & Rosenberg (2011)の結果と一致するものであった。本研究結果から,ざ瘡を有する者の中には社交不安の症状を抱えている者が存在しており,その中でも特に回避行動を強く示す者は日常生活のみならず通常の対人関係においても苦痛を経験している可能性を指摘することができる。以上のことから意義としては,ざ瘡を有する者の中でも特に回避行動を強く示す者には,通常の皮膚科的治療に加えて心理的な支援を行う必要性を示した点にあるといえる。さらに,ざ瘡を有する者の認知的・行動的特徴に加えて,他者表情の捉え方についてリーフレットとしてまとめ,皮膚科(270院)へと送付し,ざ瘡を有する者への心理的支援の必要性についての理解を求めた点は本研究の重要な点である。
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