本研究では,増加の一途をたどり対策が急務とされている2型糖尿病患者を対象とし,患者のセルフケア行動の遂行を阻害する要因として,患者の抑うつ・不安と治療に対する考え方の特徴を明らかにすることを目指した。さらに,そうした阻害要因がどのように影響しあい,食事療法や運動療法,薬物療法などの各種セルフケア行動のノンアドヒアランスが生じているのか,各変数間の関連性について検討することが目的であった。 今年度は,まず前年度に作成した質問紙の信頼性・妥当性を検討し,使用可能な測度の精緻化を行った。その結果,食事療法・運動療法・薬物療法に共通するノンアドヒアランスを生じさせる認知変数として「めんどうだ」「好きなようにしたい」など怠惰的認知が存在することが明らかになった。加えて,食事療法では「好きな物を食べたい」「お酒が飲みたい」など特定の嗜好品を摂取したい欲求認知,つまりよろしくないとされているものに対する接近欲求的な認知が生じていた。一方,運動療法では「時間がない」「汗臭くなるのはいや」など運動を実施する際の制約となる要素を想起する認知,つまり回避的な認知が生じており,セルフケア行動の種類による認知の差異が明らかになった。またそれぞれに十分な信頼性・妥当性が示された。 次に,当該尺度を用い,糖尿病セルフケア行動に対する考え方と患者の抑うつ・不安やセルフケア行動との関連性について検討を行った。その結果,糖尿病患者の抑うつ・不安が高いほど怠惰的認知が生じやすくなり,その結果,セルフケア行動が阻害されノンアドヒアランスが生じやすくなることが示された。なお,現時点で公表に至っていないが,以上の結果を論文化し投稿する予定である。
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