本研究では,人がしばしば体験する対人関係場面でのネガティブな感情を伴う体験(Interpersonal Experiences with Negative Emotions: 以下,IENE)に焦点を当て,その心理的ダメージから回復し,あたらな学びを得るための効果的な事故内省ならびに自己制御のメカニズムを解明することを目的としている。 平成28年度においては,次の2点について研究を進め,成果を得た: 1)IENEに対する「レジリエンス」を客観的な指標となりうる生理学的指標として前年度までに開発した脳波における1/fゆらぎの2回微分値を用い,レジリエンスの高い被験者と低い被験者とではどのような違いが見られるかについて検証した。具体的には,ストレス刺激として,ネガティブな感情を引き起こす対人やりとりの場面を聞かせ,その前,聞いているとき,聞いた後の値について比較した結果,低レジリエンスの被験者は前段階においてニュートラルよりも不快な心理生理学的な状態にあること,後段階においてもニュートラルな状態に回復しにくいことなどが明らかになった。 2)学生を対象に,学生生活の中で生じた,IENE場面の後の長期的な心理的・行動的な変化について縦断的なインタビューを実施し,IENEから学び成長するプロセスを分析した。その結果,IENEから学ぶ2つのパタンが明らかになった。1つ目は,「未熟な自分」を客観視すると同時に,「世界に対する肯定的な認知(未知な世界が広がっていることに対する好奇心)」と「展望的自己感(これから成長できる自分に対する確信」を持ち,次なる行動へと駆り立てられていくパタンである。2つ目は,諸々の取り組みや生きる中での「他者の重要性」を実感し他者との関わり方に対する考え方や行動を変化させて成長するパタンである。 微視的な1)と巨視的な2)のメカニズムの関連の解明は今後の課題である。
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