研究課題
人間が他者の信頼性について判断をする際には,その人物の顔,評判,実際の交流経験など,種々の情報源を活用する。本研究課題は,そうした様々な情報源にもとづく他者の信頼性判断を検討する一連の実験を遂行し,人間の信頼性判断がどのような特徴をもち,その背後にどのようなメカニズムがあるかを明らかにすることを目指している。以上の目的を達成すべく,平成27年度には以下の3点のことを主に遂行した。(1)顔にもとづく信頼性判断の実験に必須の基礎材料である,顔画像データベースの整備・拡張をおこなった。45名の参加者を対象に,真顔の画像を複数の角度から撮影する他,喜びや怒りなどの表情のある画像も撮影した。(2)評判にもとづく信頼性判断の神経メカニズムを検討した機能的MRI実験のデータを解析し,他者の悪い評判を学習すると,後にそれが根拠のないものだとわかっても,その人物への不信感が消えないこと,および,そうした持続的な不信感と左腹外側前頭前皮質の活動が関連することを明らかにした。以上の研究成果をまとめた論文を執筆・投稿し,Frontiers in Human Neuroscience誌に採択・掲載された。(3)顔にもとづく信頼性判断と実際の行動にもとづく信頼性判断における年齢関連差(高齢者と若年者のパフォーマンスの差)を検討した行動実験のデータをmultinomial processing treeモデルによって分析し,高齢者には何度裏切られても顔の見た目で人を信頼し続ける傾向があることを明らかにした。以上の研究成果をまとめた論文を執筆・投稿し,Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences誌に採択・掲載された。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目的は,他者の信頼性判断における多様な情報源の統合を特徴づける認知・神経過程の解明であるが,平成27年度は顔,評判,実際の行動にもとづく信頼性判断を検討する行動実験および機能的MRI実験について,学術的に評価される研究実績を挙げることができた。加えて,Journals of Gerontology誌に掲載されたエイジング関連の研究については,新聞で紹介されるなど,社会的な関心も集めるものであった。以上のことから,研究は順調に進展していると考えられる。
研究を効率的に進めるため,大学院生にリサーチ・アシスタントなどとして協力してもらう。平成27年度と同様に,顔画像撮影,機能的MRI実験,行動実験など複数の研究を並行して実施する予定なので,それぞれの研究を異なるリサーチ・アシスタントに補助してもらう。また,いずれの研究も特殊な装置の操作や多数の心理検査の実施など,複雑な手続きを含むため,円滑に研究を進められるように事前にリサーチ・アシスタントと十分に協議する時間を設ける。
平成27年度は顔画像データベースの整備・拡張として100名程度の参加者の顔画像を撮影する予定であったが,当初の予想に比して参加者の応募が少なく,予定数に達しなかったため。
平成28年度も顔画像データベースの整備・拡張を継続し,顔画像の撮影を実施する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social Sciences
巻: Advance online publication ページ: NA
10.1093/geronb/gbw034
Frontiers in Human Neuroscience
巻: 10 ページ: Article 28
10.3389/fnhum.2016.00028