研究課題/領域番号 |
15K17333
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
井手 正和 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 特別研究員(PD) (00747991)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 身体近位空間 / 視覚 / 触覚 / ラバーハンド / 自閉症スペクトラム障害 / 時間順序判断 |
研究実績の概要 |
我々は自分の身体だけでなく、自分と密接に関係する身体周辺の空間(身体近位空間)についても無意識に理解している。この身体近位空間に関する脳内表現には、視覚と触覚の統合が重要な役割を果たしている。一方、自閉症スペクトラム障害(autism-spectrum disorders: ASD)者では、異種感覚間統合の過剰と過少という多様性が報告されており、視触覚間統合に基づく身体近位空間の範囲は変容している可能性が考えられる。我々の先行研究では、手を模した対象を提示することが視触覚間統合を促し、それらに時間差がある時でさえ同時と知覚され易くなることを報告した。本研究では、この効果が生起する空間範囲に着目し、身体近位空間が自閉傾向に関連して変化するのかを検討する。本年度は、実際の手と手を模したラバーハンドを視覚的に提示することが視触覚間統合に及ぼす影響とその自閉傾向との関連性を検討した。実験参加者は、自分の手の指先に与えられた振動と、その真上に提示した光に関して時間順序判断を行った。その結果、自分の手が見える条件では、それが見えない条件と比べて、視触覚刺激を同時と知覚し易くなった。また、この効果は低自閉傾向者でのみ見られ、高自閉傾向者では低下した。更に、ラバーハンドを提示した条件でも、実際の手を提示した時と全く同様に、視触覚刺激を同時と知覚する傾向が低自閉傾向者でのみ見られた。以上の結果から、手周辺に提示した視覚刺激は指先への触覚刺激と強く統合されることに加え、ラバーハンドがあたかも実際の手であるかのように同様の効果を生じさせることが分かった。また、この効果は個々人の自閉傾向に伴って変化することから、ASD者の身体近位空間の変容と結びついている可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、実際の手と手を模したラバーハンドを提示することによる視触覚間の統合促進を調べ、その自閉傾向との関連性を検討した。実験結果から、自分の手が見える条件では、それが見えない条件と比べて、視触覚刺激を同時と知覚し易くなる傾向が見られた。また、この効果は低自閉傾向者でのみ強く生じ、高自閉傾向では低下することも示唆された。全く同様の効果が、ラバーハンドを提示した条件でも低自閉傾向者でのみ見られた。以上の結果は、身体近位空間における視触覚間統合は、自閉傾向に伴って低下する可能性を示唆している。この知見に関して、既に国内外の学会で発表を行っており、現在は論文投稿の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、実際の手と手を模したラバーハンドを提示した状況では視触覚間統合が促進され、両刺激に時間差がある時でさえ同時と知覚し易いことが分かった。また、この効果は高自閉傾向者では生じず、身体近位空間の変容と結びつく可能性を示唆する。したがって、今後は視触覚間統合が促進される空間範囲と自閉傾向との関連性を検討していき、ASD者の身体近位空間の特徴を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度と今後の研究成果を広く報告していくため、1回分程度の出張費を次年度に残すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
視覚刺激と触覚刺激の距離を簡便に操作できる装置を製作する。また、振動素子は電圧や外的な負荷を与えることで頻繁に劣化と破損が生じるため、予備を購入する。実験で得られた知見は国際誌に掲載する予定のため、英文校閲費と論文掲載費を支出予定である。
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