研究課題
自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorders: ASD)者は、自己身体の位置を正確に把握することの困難など、身体表象に関する障害が見られる。身体表象には、視覚と触覚(視触覚)の間の統合が極めて重要な役割を果たすことが知られている。視触覚間統合によって引き起こされるラバーハンド錯覚という身体表象の錯覚が、ASD者および高い自閉症傾向をもつ定型発達者では生じにくいことが報告されている(Cascio et al., 2012)。しかし、この特徴が、視触覚間の統合を制約する刺激間の時間的な一致の程度に起因するのかは明らかではない。本研究では、高自閉症傾向者とASD者を対象に、視触覚間の統合に基づく身体表象の変容の背景にある知覚・認知処理特性を検討した。時間順序判断(Temporal order judgment: TOJ)課題を用い、どの程度の時間差で、刺激の時間差を正確に答えることができるかを調べた。その結果、高自閉症傾向群、低自閉症傾向群それぞれの時間分解能は、74 ms、61 msであった。また、自閉症傾向が高いほど視触覚間の時間分解能が低下する傾向が見られた。しかし、この傾向は、参加者が自分自身の手、もしくはマネキンの手を観察しながら課題を遂行する条件では見られなかった。以上のことから、身体表象の参照を要する状況では、個々人の自閉症傾向が、視触覚間の統合に対して媒介効果をもつことが示唆された。また、実験の過程で、1名の極めて高い時間処理精度をもASDの症例を見出した。特に、触覚、聴覚に関しては、6 ms、7 msの時間分解能を有し、定型発達者の平均の10倍程度であった。以上の結果は、自閉症に関連して現れる身体表象の障害は、異種感覚間の統合における時間分解能の低下、逆に、単感覚における、時に極端なそのばらつきに起因する可能性を示唆する。
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BRAIN and NERVE
巻: 69 ページ: 1281~1289
https://doi.org/10.11477/mf.1416200905