研究課題/領域番号 |
15K17334
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
石田 裕昭 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, 主任研究員 (70728162)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 身体意識 / 腹側運動前野 / 島皮質 / 下頭頂小葉 / 大脳基底核 / 大脳辺縁系 / 狂犬病ウイルス |
研究実績の概要 |
身体意識とは、自分自身の身体に向けられる意識のことであり、健常時では動作を意図的に制御する過程において重要な役割を持つ。身体意識の異常は、運動障害だけでなく、自己認識に関わる認知機能障害(妄想)や意欲に関わる情動障害(無気力)とも関連することが明らかとなっている。これまでの研究から、腹側運動前野、島皮質、下頭頂小葉の神経ネットワークが身体意識の形成において重要であることが示唆されている。しかし、どのようなニューロン群と神経ネットワークよってそれが支えられているか未解明である。そこで研究課題では神経生理学と神経解剖学の手法を駆使し、この重要な問題に取り組む。神経生理学研究では、行動課題を遂行しているマカクザルの腹側運動前野、島皮質、下頭頂小葉から、多点電極アレイを用いて複数のニューロン活動を記録する。各領野の活動特性から各領野が身体意識を領野特異的にコードする実態を明らかにする。平成27年度は、電気生理学実験室のセットアップが完成した。また新規に製作した課題制御装置を導入した。この装置を用いた課題プログラムを自作し、2頭のマカクザルの訓練に着手した。神経解剖学研究では、腹側運動前野の神経ネットワークに焦点を絞り、狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法を用いた解析に取り組んだ。腹側運動前野は大脳基底核の運動領域に加え、辺縁系領域から投射を受けることが明らかとなった。大脳基底核の辺縁系領域は島皮質から入力を受ける。身体意識を形成する神経ネットワークには大脳基底核や大脳辺縁系が関与する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、 電気生理学実験室のセットアップ、課題装置の製作を完了し、2頭のマカクザルの課題訓練を開始する計画を立てていた。この点は当初の計画通りに進展している。 次年度以降は、サルの課題訓練を完了し、課題遂行中のニューロン活動を記録する計画である。神経解剖学的解析では、狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシング法によって、大脳基底核から腹側運動前野への特異的な投射を同定することに成功した。この成果は、European Journal of Neuroscienceに掲載された。これは計画以上の進展である。さらに、これらの研究と並行してパルマ大学との国際共同研究を行った。実験者がサルの身体にグルーミング体性感覚刺激を加えた時のサルの心拍変動の変化を調べた。これは当初の計画になかった研究だが、島皮質が深く関わる自律神経系の活動やストレス応答について考察するために重要な研究であると判断し着手した。この成果は、Frontiers in Veterinary Scienceを含め2報に掲載された。以上の点を踏まえ、本研究計画は、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
神経生理学的研究では、2頭のマカクザルの課題訓練を完了させる。その後、課題遂行中に腹側運動前野、島皮質、下頭頂小葉から多点電極アレイを用いて複数のニューロンの活動を同時に記録する。これによって各脳領野内の神経回路、情報処理のメカニズムの解明を目指す。神経解剖学的研究では、腹側運動前野の神経ネットワークに焦点を絞り、狂犬病ウイルスを用いた逆行性越シナプストレーシングの研究を続ける。特に扁桃体を含めた大脳辺縁系との神経ネットワークについて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経生理学研究では、多点電極アレイを入手することが最も肝要だが極めて高価である。当該年度の進捗状況に基づき、多電極アレイを用いるニューロン活動の記録は次年度以降の開始となる見込みである。したがって、次年度以降の分配額と併せて使用することが最善であると判断した。
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次年度使用額の使用計画 |
多点電極アレイを購入する。また必要に応じてニューロン記録・解析ソフトを追加購入する。また得られた成果については随時学会等の研究会で発表するため、研究会に参加するための旅費等にも研究費を使用する。
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