研究課題/領域番号 |
15K17336
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
橋野 晶寛 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (60611184)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 教育政策 / エビデンス / 政策過程 / 教育財政 |
研究実績の概要 |
27年度は、本研究課題の理論的検討部分にあたる作業として、1)研究と社会・実務の関係論の原理的考察・教育政策分野の特質に関する考察、2)教育政策研究におけるエビデンスの諸前提とその社会・政策への含意の検討を行った。 1)の作業については、アメリカ教育政策史、科学技術社会論、政治学などの文献を検討した。特に科学技術社会論の分析対象の多くがエネルギー・環境・医療政策など自然科学系の研究と社会・政策との関係に限定されていることを鑑み、社会政策・社会科学間の関係との異同を精査した。経過報告として、27年11月に東京大学大学院教育学研究科におけるセミナーにおいてその成果を発表した。そこでは、教育政策研究の特質として、広範な「専門家」の存在、多様な・多数の実務家の存在、学術誌における緩いヒエラルキー、因果関係を説明する理論モデル・理論志向の不在などについて仮説的に指摘した。この報告をふまえて、現在執筆中の論文では近年の日本の教育財政の政策過程において、エビデンスとして教育政策研究への社会的要請の内容の検討――主として経営・行政組織体間の効率性の比較を前提とした「ワイズスペンディング」の研究上・政策上の意義――と、今後の実証研究方法論が引き受けるべき課題を指摘した。 2)の作業に関しては、その成果の一部を紀要論文(橋野2016)として発表した。教育政策の計量的実証分析・政策評価で単一産出を前提とした手法が政策決定に与える含意を検討し、結合産出という特質をふまえない従来の知見が教育政策研究史上に与えてきたと思われる影響を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度に行う作業として、本研究課題の理論的検討部分にあたる作業――研究と社会・実務の関係論の原理的考察と教育政策分野の特質に関する考察――を計画していた。具体的にはアメリカ教育政策史、科学技術社会論、政治学(「専門性の政治学」)などの文献の検討である。実際の経過は概ね次の通りである。 まず、アメリカ教育政策史については、先行研究であるLagemann(1992,2000)の貢献を出発点としつつ、同文献の統計学的な教育政策研究への考察の弱さを補うべく、多角的に検討を行った。また、科学技術社会論の文献については、その議論が有用な参照枠組みを提供するものと捉えつつも、その多くの分析対象がエネルギー・環境・医療政策など自然科学系の研究と社会・政策との関係に限定されていることを鑑み、社会政策・社会科学間の関係との異同を精査した。さらに、他の政策分野と比較した際の教育政策分野の研究・社会アクターの特質を制度的要因、時変的要因の2側面から抽出した。 これらの作業をふまえて経過報告としてセミナー発表を行い、またそれらをふまえて論文を執筆した。年度末に予定していた資料収集は学内業務により、次年度に繰り越すこととなったが、予定していた研究成果の発表はスケジュール通り達成できた。 以上を総合すると当初の計画に照らして概ね順調な進捗状況にあると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、27年度末において実施予定であったアメリカ教育行政研究創生期における文献資料の収集を行い、この時期の代表的研究者のE. P. Cubberleyに着目し、教育行政学および調査研究と社会との相互関係に関する思想を明らかにする。 また、教育政策における政策研究と政治・社会の関係の現代的事例として、付加価値モデル(value-added model)による学校・教員評価に着目して、相互作用の過程の分析を行う。付加価値モデルは、パネルデータを用いた線形回帰モデルの応用であり、統計学・計量経済学が教育政策・行財政の実務に適用された実例である。その実務上の適用の可否をめぐる論争は、各州・学区の行政当局と教職員組合という実務家の間でのみならず、教育統計学や計量経済学など統計学関係の専門研究者の間でも起こった。これらの実務・研究の双方のレベルでの20年におよぶ論争をトレースする。具体的には次の作業を実施する。 第1に、既に膨大な蓄積が形成されつつある付加価値モデルの適用における統計学的性質の検討し、教育統計学・計量経済学などの専門ジャーナルの系統的な文献サーベイをふまえて実務への含意を明らかにする。 第2に、付加価値モデルによる教員評価の論争の背景にあるアカウンタビリティをめぐる実務家間の利害対立、その対立から教育政策・統計学関連研究者へのフィードバック・その後の付加価値モデルの技術的展開、という2つの流れを追うとともに、実証研究の知見と政策評価の技術がアカウンタビリティと専門性の現代的相克に如何なる影響を与えたかを明らかにする。 この付加価値モデルに関してカリフォルニア州等を対象にして事例研究を行う。調査回数が確保できないと予想される場合は、27年度に実施予定であった調査先と地理的に近接しているため、渡航期間を長くとることで併せて資料収集作業を円滑に進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度の計画として、アメリカ教育行政・経営学創始期(1910~30年代)における教育政策と教育行政学の関係に関する史料の収集を行う予定であった。分析の対象として着目したのは、アメリカ教育行政・経営学の創始者の1人であるE. P. Cubberleyの思想、研究・専門職養成教育における構想、およびそれらと深い関わりがあった「学校調査」である。そのために、スタンフォード大学教育学図書館での文献調査のための旅費(交通費・宿泊費)の支出を予定していた。当初28年3月にその調査を行うこととしていたが、学内委員会業務により当月中に出張日程を確保することが難しくなったため、調査およびその旅費支出を翌年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度末に行う予定であったアメリカ(スタンフォード大学教育学図書館)での文献調査を、28年8月(もしくは10月)に行う予定である。またそのための旅費(往復交通費と宿泊費)として繰り越し分の230,000円をあてる。また、その他に28年度分として、アメリカ教育政策・財政関係文献購入費200,000円、国内学会における成果発表のための旅費100,000円、アメリカにおける資料収集のための旅費250,000円、資料整理などの謝金50,000円を支出する予定である。
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