本年度は、教育政策分野における研究―社会間関係の現代的かつ先鋭的事例として付加価値モデルに基づく組織・教員評価に焦点を当て、統計モデルとしての方法的論点およびそれに付随する政治過程について分析・考察を進めた。付加価値モデル(Value-Added Model )はパネルデータの回帰モデルをアウトカムベースの評価に応用したものであり、アメリカの教育政策・行政の実務の文脈において、教員評価・学校評価に用いられている。雇用や予算・給与配分に関わる評価にも適用されているがゆえに、この付加価値モデルへの学術的・政治的関心は非常に高い。 今年度内に発表した論文では、教育政策分野における複数の付加価値モデルの技術的論点を主として扱い、検討を行った。教育経済学、教育統計学・計量経済学で用いられている様々なモデルを対象とし、成果データの測定、関数形、内生性、付加価値に基づくランキングの安定性などの従来的な論点の検討に加えて、現段階の付加価値モデルが組織・教員間の補完性を看過している点などの指摘を行った。また、これらの統計モデルとしての技術的側面の検討のみならず、様々な付加価値モデルの仮定がもたらす含意について議論し、評価をめぐる政治、研究-社会間関係への示唆を論じた。著書(分担執筆)では、教育財政の文脈において、付加価値モデルおよび同様の回帰モデルを用いた個人・組織評価モデルが果たしうる役割について指摘を行った。 本年度に行った研究に関する成果発表は上記分では完結していないため、近年の新しい学校・教員評価モデル(SGPモデル)の技術的検討、付加価値モデルに基づく教員評価をめぐる政治・司法過程の事例分析を近く発表する予定である。
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