研究課題/領域番号 |
15K17338
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
市川 秀之 千葉大学, 教育学部, 准教授 (70733228)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | クリティカル・ペダゴジー / デモクラシー / 希望 / 解放 / 知性の平等 |
研究実績の概要 |
3年間の研究期間の2年目に相当する本年度は、前年度の研究成果を踏まえて主に2つの作業を行った。1つ目は、ヘンリー・ジルーらの論に基づくクリティカル・ペダゴジーとは対極に位置する、ガート・ビースタやジャック・ランシエールの論の検討である。検討を通して、中断や知性の解放を強調する点で、それらの論がジルーらのモデルが有しうる暴力性を抑制すると指摘した。 2つ目は、クリティカル・ペダゴジーが規範を人々に共有してもらう際に、希望が果たす役割の検討である。まず、クリティカル・ペダゴジーの希望論の源流であるパウロ・フレイレの著作(とりわけ『希望の教育学』)を検討した。そして、フレイレの言う希望が理性のみではなく情動からも構成されてること、新自由主義に抵抗する民主主義社会の構築を目がけていることを明らかにした。 次に、フレイレの論を引き継いだジルーの「教育された希望」概念を検討し、それが教育実践の中で教育者から提示されたり、実践の中で生まれたりする、規範を内在した道徳的想像力であることを明示した。さらに、こうした希望がポスト基礎づけ主義的な性質を有しており、決定的な根拠がない状態で基礎づけを行うための決断へと人々を動かす媒介となっていると主張した。研究の成果は日本デューイ学会で発表し、現在論文を執筆中である。 加えて、昨年度および本年度の研究の過程で得た知見を基に、熟議を用いた道徳授業の開発と実践を行った。この成果は、日本道徳教育学会で発表した。授業開発の取組は、道徳授業とデモクラシーを関連づける点で民主教育の実践研究であり、クリティカル・ペダゴジーにおいて主たる行為である対話が理論的に果たす役割を考察するための契機にもなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究計画の2年目に記載した事項(ビースタとランシエールの教育思想の検討と問題点の指摘)を概ね満たしたことに加え、前年度の研究を発展させ、従来のクリティカル・ペダゴジーの特徴をより明確にすることができた。アメリカ教育哲学会の大会にて、ランシエールの思想を扱ったセッションに参加したことにより、新たな分析視角を学ぶことができたため、次年度の研究の発展が期待できる。以上から、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、ビースタやランシエールの論をジルーらの論と統合することである。統合にあたっては美的なものに着目し、それが規範を人々に伝播する際のメディアとなっていると同時に、押しつけを回避する役割も果たしている点を提示する。この作業を進める際には、タイソン・ルイスやクラウディア・ルーテンバーグの論考を用いる予定である。とりわけ前者の論については、詳細に検討する。 加えて、今年度は十分にできなかったシラーの著作等を読解すると同時に、マリット・デューハーストをはじめとする、クリティカル・ペダゴジーに基づくアート教育の実践研究等も検討する。検討の際には、ランシエールの言う知性の平等や解放と、ジルーらの論の核であるヘゲモニー概念との統合という観点をとりわけ重視する。これにより、美的なものがクリティカル・ペダゴジーの実践にどのように反映され、どのような効果を発揮するのかを明らかにする。 上記の研究を遂行するにあたっては、本年度と同様に研究協力者の山本圭氏(立命館大学)に論文検討の依頼をすると同時に、同氏もメンバーである「ポスト基礎づけ主義と規範の行方研究会」にて発表を行う。また、オーストラリア教育哲学会等に参加し、参加者と学術的な交流をはかる予定である。
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