生涯学習の振興、普及とともに、専門職業人を対象にした学習論が注目されている。社会文化アプローチに立脚した学習論では、「労働への参加」=主体的な学習と捉えており、対人専門職が「労働の場」に入り、クライアントや家族、地域住民、他の専門職業人や同僚と関係性を結び合いながら、どのような学習過程を歩んでいるのかについて、各職種の特質が解明されている。これは、インフォーマルな学習に着目したキャリア発達論、専門職論である。こうした考え方を踏まえ、本年度は、「一人職」である養護教諭にとっての現場である「学校」における他の教職員等との関係性のなかで、養護教諭がいかなる学びを経験しているのかを明らかにするために、公立小・中・高校で事例調査を行った。 結果として、コミュニケーション・システムが、養護教諭の学びを左右する主な要因であった。とくに①コミュニケーションの複線ルートが確保され、それらが相方向型である、②役割期待や役割関係を明確にできる対話、③共有すべき「観」やビジョンを掘り下げ、耕すことのできる「問い」・応答のプロセスが絶えない、④対面型のコミュニケーションが大切にされている場合、養護教諭は当該校の一員としての組織アイデンティティが高まる経験をしていた。他者との関係のなかで自己を捉える視点が高まり、自文化への陥落等に気づきながら、自他の差異の結節点を探り、生かした「折り合い」のつけ方を学んでいた。このことは、養護教諭アイデンティティの再構築へと派生し、視野を広げる必要を意識化していた。また、あらゆる関係性や経験を振り返りの機会と位置づけ、省察を意識化していた。これより、「一人職」にとって、学校現場は省察を促す「実践コミュニティ」として機能し得る可能が示唆される。他方、真のナラティブや他校養護教諭の実践様式の学びは養護教諭どうしのコミュニティでしか行えず、学外に設計する必要性がある。
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