本研究は、19世紀末から20世紀初頭のイングランドにおける教養教育の定義の変遷についての分析を通じて、大学教育の理念を再検討することを目的とするものである。最終年度である平成30年度は、以下の3点を行った。 (1)市民大学の教育内容の変遷に関する分析:前年度に引き続き、これまでに収集した一次資料の分析を行った。本年度は特に、市民大学の教育内容の時系列的な変化に着目した。分析からは、市民大学におけるカリキュラムは、大学昇格前と大学昇格後で大幅に変更が加えられたわけではないこと、つまり、技術・専門職教育科目を中心としたカリキュラム構成が維持され続けたことが明らかになった。これは、前年度までに行ってきた政府文書の分析結果(教養教育は、特定の科目(アーツ・サイエンス科目)の履修を指すのではなく、目指すべき理念として位置づけられるようになった)とも一致するものである。 (2)追加の資料収集:包括的な分析をするにあたり、補完が必要な一次資料を国内で追加収集した。 (3)包括的な分析:19世紀末から20世紀初頭にかけての教養教育主義の変遷の過程を、政策上の変化及び実際のカリキュラム上の変化の両面から包括的に分析し、教養教育が理念として昇華して技術・専門職教育と共存し、大学制度の中に根付いたことの意義について考察した。
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