研究課題
近年、学校から労働への移行が円滑に進まない若者支援が社会問題となり、キャリア教育・職業教育に対する関心が高まっている。しかし、これまで日本教員養成史研究は、これらの教員養成を自覚的に追究してこなかった。本研究は、キャリア教育・職業教育、特に高等学校専門学科において職業教育を担当する教員の養成のあり方を追究するための基礎的作業として、「戦前の制度が影を落としているのではないか」とされる工業科教員養成制度の特殊性の形成過程を、戦前日本の実業学校教員の養成と供給において「最も重要な課題の一つ」とされる実業学校教員検定の実態、および同検定の成立過程に着目しながら解明することを目的としている。こうしたことから本研究は、高等学校専門学科において職業教育を担当する教員の養成、および教員免許状のあり方を追究するための基礎的作業として、戦前日本の工業科教員養成の特殊性の形成過程を解明するために、工業科教員を含む実業学校教員の養成と供給において「最も重要な課題の一つ」とされる実業学校教員検定に着目する。そして、実業学校教員検定が制度化された1922年から廃止される1947年までの実態解明、および同検定が制度化に至った経緯とその意義の再検討を通して、戦前日本の工業科教員養成制度における実業学校教員検定が果たした役割について分析している。分析が進むにつれ、実業学校教員検定制度と師範学校中学校高等女学校教員検定における「農業」や「商業」等の実業関係学科目が制度上併存するようになり、戦後日本の教員養成や教員免許制度へと展開していくとみることも不可能ではないこと等が明らかになりつつある。
4: 遅れている
当初の課題の一つであった実業学校教員検定の制度的変遷や実施の様態、および受験者数や合格者数の量的分析は終了し、その特徴が実習学科目の合格者数にみることができることを解明した。しかし、研究の進展により、新たに実業学校教員検定と師範学校中学校高等女学校教員検定における「農業」や「商業」等の実業関係学科目が制度上併存するようになったことが明らかになってきた。これらの関係と区分、そして、戦後日本の教員養成や教育職員免許制度への展開過程について一定の見通しが立てられたものの、実証するために不可欠な次の2つの課題が残されていることが判明した。1つは、師範学校中学校高等女学校教員検定における「農業」や「商業」等の実業関係学科目の実態解明である。もう1つは、実業学校教員検定が制度化される1922年以前に「文部大臣ノ認可」により実業学校の有資格教員となった者の実態解明である。現在は、これら2つの課題の実態調査がほぼ完了し、これらの実態を踏まえ、改めて実業学校教員検定の特質を分析しており、近日中に公表できることは間違いない。
今後は、当初の課題のもう一つである実業学校教員検定が制度化に至った経緯とその意義の再検討を進める必要がある。そのためには、無試験検定機関とりわけ、私立大学や私立専門学校のいわゆる許可学校の存在が重要になってくると考えている。天野郁夫『高等教育の時代』(上下巻)等によれば、私立大学にとって専門部の存在が経営上、重要な役割を果たしており、これらの私立大学専門部が実業学校教員検定の許可学校となっていたことが明らかになりつつある。他方、私立大学商学部等の多くは実業学校教員検定ではなく、師範学校中学校高等女学校教員検定の「商業」の無試験検定機関となっていた。このように、少なくない私立大学が、大学を師範学校中学校高等女学校教員検定の無試験検定機関として、大学専門部を実業学校教員検定の無試験検定として位置づけようとしていたことが明らかになりつつある。実業学校教員検定と師範学校中学校高等女学校教員検定が制度上併存し続けた理由の一つには、こうした私立大学とその専門部の存在があったとみることは不可能ではない。私立大学専門部が実業学校教員検定無試験検定の許可を受けるために文部省に提出した申請書類の分析を通して、実業学校教員検定の意義を再検討する。
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高等学校工業科における実習教育の内容等の歴史的分析と教員養成に関する実証的調査研究
巻: 科学研究費補助金研究成果報告書(15K00965) ページ: 57-66
巻: 科学研究費補助金研究成果報告書(15K00965) ページ: 112-119