最終年度である2017年度は、これまでの研究の総括として2本の単著論文を執筆することができた。1本目の論文「1970年前後のイタリアにおける学校の変革に関する考察 ―雑誌『学校実践』の分析を通して―」は、学校の変革期である1970年前後のイタリアに焦点を当てたもので、研究テーマの一つであった学校教育と学校外教育について、どのような議論が行われてきたのかを明らかにすることができた。議論の核心は、学校における文化の創造であり、学校のこれまでの文化を相対的に批判するものとして、学校外の教育が位置付けられている。 2本目の論文は、イタリアのおける市民性育成について、学校だけではなく、市民社会全体でどのように捉えるのかを、特別支援教育や外国にルーツを持つ子どもの教育などにも触れながら論述したもので、学会誌に投稿し、現在査読を受けている途中である。この論文の執筆に先立って、イタリアでのフィールドワークを行い、多数の学校外の団体が行うワークショップなどを中心に見学を行うことで、市民性の育成に関しても、学校外の団体が大きな役割を果たしていることを明らかにすることができた。 研究期間全体を通じて探究してきた生涯学習社会における学校教育に役割について考察すると、現在のイタリアではコンピテンス獲得が学校教育の主張な目的として位置づけられている。ただし、学校の中で全て完結するのではなく、外部リソースを積極的に使うことができるようになっている。つまり、学校教育の役割は、コンピテンス獲得のために子どもにとって必要な教育機会を、様々なリソースを用いながらコーディネイトすることにあると言い換えることができるだろう。ただし、外部リソースの利用に関しては、学校教育との連携が不十分であるなどの実態にも触れることができた。そうした負の側面を考察することができたことも、本研究の成果である。
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