研究課題/領域番号 |
15K17369
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
井藤 元 東京理科大学, 教職教育センター, 講師 (20616263)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 芸術教育 / 道徳教育 / シュタイナー教育 / オルタナティブ教育 / ゲーテ / 笑い / ユーモア |
研究実績の概要 |
現在、わが国においては、「道徳」の教科化に向けて議論が進められている。そうした状況にあって、今後の道徳教育のあり方を考えてゆく上での示唆を得るべく、本研究では、近年、世界的に受容され、ユネスコからも高く評価されているシュタイナー教育に焦点を当て、そこにおける道徳教育の内実を探った。シュタイナー教育は、思想家であり教育者である、ルドルフ・シュタイナーが生み出した独自の教育実践である。シュタイナー学校では、「道徳」という独立した教科は設定されておらず、学校教育全体において、道徳教育が遂行されている。そこでは、芸術教育と道徳教育が融合し、芸術教育を行う中で道徳教育が実現されているのだ。芸術教育といっても音楽や美術といった芸術系科目ばかりを重視しているというわけではない。たとえば、国語が芸術的に、数学が芸術に教えられ、あらゆる科目に芸術が浸透しているのである。そうしたシュタイナー教育の現状を把握すべく、平成27年度は学校法人シュタイナー学園(神奈川県相模原市)において調査を行った。とりわけ「国語」の授業における道徳教育の実践例として、ユーモアエポックの分析を行った。ユーモアエポックは3週間にわたって午前中毎日「ユーモア」を主題として授業を行うものだが、そこでは生徒たちが「笑い」の構造を分析する中で様々な文学作品に触れ、自然と「生きることそのもの」に対峙するような仕掛けが施されていた。その研究成果については、学会発表および投稿論文のうちに結実させた。また、本研究のテーマからの派生的課題として、将来、道徳を教えることになる教員の養成に関しても同時進行で研究を進めており研究成果を投稿論文、学会発表のうちにまとめた。 平成27年度の研究成果をまとめるならば、著書2冊、研究論文2本、学会・研究会発表2回、実践報告1本となる。その詳細は【現在までの進捗状況欄】に記す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】欄で示したとおり、平成27年度は主に学校法人シュタイナー学園(神奈川県相模原市)において調査を行った。その研究成果については日本教育学会第74回大会(於:お茶の水女子大学)で発表し、投稿論文が学術雑誌『ホリスティック教育研究』(日本ホリスティック教育協会、第19号、2016年)に掲載された。また本研究をつうじて示唆された内容を盛り込んだテキストを、他の教育哲学研究者とともに作成し(井藤元編『ワークで学ぶ道徳教育』、ナカニシヤ出版、2016年)、刊行した。 本研究をつうじて明らかにしたとおり、シュタイナー教育における道徳教育のありようは極めて特殊である。芸術教育と道徳教育は渾然一体となってシュタイナー教育のすべての教科・活動のうちに沁みわたっている。本研究を進めていく中で、新たにシュタイナー教育の教員養成はいかに行われているのかという問いが浮かび上がってきた。そこで、平成27年度はわが国におけるシュタイナー教育の教員養成に光を当て、その現状について分析を試みた。本分析の成果は、平成27年度中にはまとめることができなかったが、【今後の研究の推進方策等】の欄に示したとおり、平成28年度中にはその研究成果の一端を研究論文の形で結実させたいと考えている。 また、将来、道徳を教えることになる教員の養成に関しても同時進行で研究を進めており、その研究成果を日本教育工学会研究会で発表した。また同研究を論文としてまとめ、その成果が『東京理科大学紀要 教養篇』(第48号、2016年)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
【研究実績の概要】欄で示したとおり、シュタイナー教育では、道徳教育と芸術教育は不可分の関係にある。すなわち、シュタイナー学校の授業が芸術に満たされていることは、それが道徳教育に満たされていることと同義なのである。よって芸術が細部に至るまで浸透しているシュタイナー教育においては、あえて道徳の学習に特化した時間を設定する必要はないのであった。ところで、シュタイナー教育におけるそのような道徳教育が成立・機能するためには、教師の「権威」が不可欠だとされる。ここでの「権威」は「師」の有するそれに比せられる。すなわち児童・生徒が教師の魅力に惹きつけられ、自発的にそれに従うのである。「権威」をつうじて、事物に対する眼差しを子どもたちはあらゆる場面で自分のものにすることが求められる。「権威」を前提とした道徳教育を考える際には、同時に、教員養成のあり方そのものも問い直されることとなる。ここにおいて子どもにとって魅力ある「権威」となる教師はいかに養成されるのかが問題として浮かび上がるのである。そこで本研究では今後、シュタイナーの道徳教育論を可能ならしめる前提として、シュタイナー学校の教員養成課程において「道徳」がいかに捉えられているかについて検討する。具体的にはわが国におけるシュタイナー教育の教員養成に光を当て、その現状について調査を行う。その研究成果については、学会発表および投稿論文のうちに結実させる予定である。また、本研究の副産物として、今後の教員養成のあり方について議論すべく、井藤元編『ワークで学ぶ教職概論』(仮題、ナカニシヤ出版、2017年出版予定)を刊行する予定である。さらに、平成27年度に引き続き、各教科の枠内でいかに道徳教育が行われているかについても調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は主に我が国におけるシュタイナー学校の現状に特化して研究を進めていったため、海外での調査は行わなかった。そのため、旅費の執行が当初の予定を下回ることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、シュタイナー学校における実施調査を数多く行い、シュタイナー教育の動向を調査する予定であるため、平成27年度に発生した残額を執行させていただく予定である。
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