今年度の研究成果は次のようなものである。 まず,教育と職業に関する先行研究をまとめるとともに,複数のデータから多面的な検討を行った。1つは「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」データを用いて,教育と職業との関連について長期的な視点から分析した。その結果,(1)大卒者の職業構成は比較的安定しているものの,職業キャリアの中盤で管理職への到達が困難化していること,(2)高卒者の職業構成の変化は大きく事務職が減少しブルーカラー職に集中していること,(3)全体的には学歴間の相対的格差は安定して維持されていること,が明らかとなった。もう1つは「平成24年就業構造基本調査」を用い,職業小分類レベルで近年の学歴と職業の関係を探索的に検討した。その結果,(1)職業大分類レベル内部でも多様性がみられること,(2)専門・技術職内部においては若年層ほど医療系の専門・技術職についていること,などが確認された。 次に,教育機会の格差について,複数の観点から検討を行った。第1に,高校生とその母親を対象とした調査(「高校生と母親調査,2012」)を用い,高校生の子どもを持つ親の階層構造の分析を行い,家族の保有資本の総量および構成によって階層が分化すること,こうした階層の多次元性が高校卒業後の親子の進路希望に影響すること,が分かった。第2に,日本学生支援機構による「学生生活調査」を資料として,家庭の所得階層別の大学進学率の推計を行った。これにより,最近の格差の動きを確認し,家計の費用負担および奨学金制度に関する検討を加えて。さらに,兵庫県の高校3年生を対象とした「高校生の進路と生活に関する調査」を用い,大学進学時の奨学金利用のメカニズムを検討した。
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