本年度は,米国ニューヨーク市における近年のチャータースクール(charter school)をめぐる研究動向を整理・検討し,新たなタイプの公立学校創設における課題について検討した。本研究では,チャータースクールの成果として学力向上への寄与について検討しつつも,3つのトレード・オフ(trade-off)の問題を課題として,(1)人種分離・隔離(racial segregation)の問題と公正性(equity)の追求の問題,(2)資源配分をめぐるパレート基準(Pareto criterion)の問題,(3)アファーマティブアクション(affirmative action:積極的差別の是正)とトラッキング機能の問題を検討した。なお近年のエビデンスベーストな教育政策の効果検証においては,無作為比較実験(Randomized Controlled Trials:RCTs)の環境下におくことが理想とされている。具体的には,研究対象を処置群(treatment group)と対照群(control group)に無作為に割り当て,そのグループを比較することよってその効果を検証するデザインである。しかし教育政策の検証においては倫理的な問題や費用面の問題から,対象者の無作為割り当てが難しいことから,実験研究の条件にできる限り近づけた準実験(quasi-experimental)デザインが採用されている。その方法の1つが,操作変数(Instrumental Variables:IV)を用いた因果効果の推定である。そこで経済学における教育政策評価の実態と方法の一事例として,チャータースクールのインパクト評価(impact evaluation/assessment)の方法の実態と課題について検討した。
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