本研究の最終年度となる平成30年度は、前年度までの調査・研究結果を総括し、その成果の公表を、「7. 研究発表」の〔図書〕に示した山内(2018年)のうち以下の部分においておこなった(石川裕之「韓国における才能教育―高度人材育成のための国家戦略―」山内乾史編著『才能教育の国際比較』東信堂、2018年12月、189-218頁)。韓国では2000年代以降、英才教育振興法に基づき、国家的な才能教育体制が構築されていた。韓国における才能教育実施の正当性はまず何よりも、科学技術分野の高度人材を育成することを通じて国家・社会の発展に寄与するという機能によって担保されており、このことが極端な数学・科学分野偏重やエリート主義的ともいえる才能教育体制の構造を現出させていた。一方、2000年代半ば以降は、才能教育において社会経済的なマイノリティや教育機会の地域格差に対する配慮がおこなわれようになるといった変化もみられ、2016年時点で才能教育対象者全体の4.5%がこうした社会的配慮対象者であった。しかし積極的格差是正措置の内容は、才能教育機関の教育対象者選抜における特別定員の導入など形式的な水準に留まり、女子や障害を持つ子どもなどに対しては十分に有効とはいえないものであった。こうした点において、韓国の才能教育における積極的格差是正措置を通じた平等と卓越のバランスには、依然として課題が残されていることが明らかになった。さらに調査の過程において、2010年代に入ってからは才能教育予算の削減が続いており、その穴を埋めるために一部才能教育プログラムの有償化が進んでいることも明らかになったが、今後それが才能教育の「私事化」へとつながり、教育対象者やその保護者の利己主義を正当化する方向へ進む可能性も指摘することができた。
|