最終年度のH28年度には、本研究の成果を博士論文「近代古典教育の成立と展開」として提出を行い、博士論文として認められた。本研究の成果を端的にまとめると、明治期における中等国語読本の形成過程の一端を明らかにしたことと、それぞれの読本への編者の文体(文範)意識を明らかにしつつ、当時における古典の教材性の在り方を解明したことが挙げられる。また、教材研究と国文学研究の交差の実践、古典を読む機能としての「他者性」の可能性の提示、国文学研究からも教材研究からも注目されてこなかった新たな読みの提示などに至ったことが挙げられよう。さらに、近代国語科育史研究における未発掘史料の紹介とその解題を作成することができた。 普通文に対する文範性を根拠として古典教育が成立していた時期を古典教材観の形成期前期、言文一致運動が完成し、古典から文範性が喪失していった時期を古典教材観の形成期後期と仮に呼ぶとするなら、明治30年代までが前期、それ以降の明治・大正期が後期に当たるだろう。本研究第一部は前期から後期に移行しようとする過渡期に当たる落合読本を論じたところで稿を閉じた。後期に関する議論は残されたままである。後期は古典から文範性が喪失し、国民性の涵養といった意義が古典教育に付与されることとなるわけだが、文範性が喪失した時代というくくりで言えば、後期の議論は現代にもつながっていく。 国語科教育のカリキュラムとしての「古典」の成立は昭和6年の中学校教授要目に求められる。本研究はそこへ至る大正・昭和初期の過程を叙述するに至っていない。本研究最大の課題は、この後の時代における古典教育の展開を丹念に追うことである。
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