研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の経験豊富な教師による算数・数学科授業における相互行為のパターンを発問-応答過程を視点として特定し,その展開にみる教授行為・学習行為の特質を明らかにすることである. 2021年度は,次の3つのことに取り組んだ. 第一に,奈良教育大学附属中学校に協力を依頼し,2021年4月から2022年3月にかけて,中学校第2学年の数学科授業に関する授業データを新規に収録した. 第二に,収録した中学校第2学年の数学科授業データを用いて,学習者同士の相互行為に焦点を当てて分析を行った結果を日本数学教育学会第54回秋期研究大会および日本科学教育学会2021年度第2回研究会において研究発表をおこなった.特に,授業における数学的知識の定着を意図した場面で,一人では解決に至らない学習者が,他の学習者の支援を求めて生起した相互行為に焦点を当て,二者間に成立している関係及びその関係に付随する要点を明らかにすることに取り組んだ. 第三に,「学習者の観点からみた授業研究(LPS)」(Clarke et al, 2006)で収集した小学校第5学年の算数科授業ビデオを用いて,教師が本時の目標に児童の焦点を合わせるために,教師の専門的知識と気づきのスキルをいかに用いて児童との相互行為を形成しているかについて分析した.連続した9時間の異分母分数の比較に関する授業について,まず,分数の比較における手続的な側面から量的な側面へと児童の発話の焦点がいかに変化したかを分析した.次に,教師インタビューをもとに,教授行為の形成に伴い,常に本時の目標が参照され意思決定がなされていることを明らかにし,児童の数学的思考に気づく過程にみる当該教師の豊富な数学的内容知識と教育的内容知識を顕在化した.この内容は,国際ジャーナルZDM-Mathematics Educationに投稿して掲載された.
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