研究課題/領域番号 |
15K17402
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
福井 一真 愛媛大学, 教育学部, 講師 (90583815)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | アンケート調査 / 「環境」的な支援 |
研究実績の概要 |
平成27年度は【「環境」的な支援】を主軸に研究をすすめていった。4月から7月にかけて、愛媛県松山市の図画工作科における工作に表す活動の実施状況や道具の取り扱いに関する情報を把握し,具体的な支援体制を整えるための課題の抽出などを主な目的としたアンケートを実施した。対象者は松山市立全55校の図画工作科を受け持っている(受け持ったことのある)小学校の教員とし,809名から回答を得ることができた。(松山市立全55校のうち94.5%の学校から回収)アンケート調査の結果から、「1.クランプ等の使用による造形活動における安全性の向上」、「2.教員のためのものづくり体験の機会充実」、「3.道具の整備と管理の支援」という支援体制を整える3つのポイントが浮かび上がった。 「1.」については、小学校への道具の貸出を視野に入れた道具の拡充・整備として、クランプや両刃のこぎり、金づち、彫刻刀などを2クラス分80セットを購入した。それと同時に、教員を対象とした免許状更新講習会(6月)、松山市レベルアップセミナー(8月)においてクランプや小刀を中心とした道具の基本的な取り扱い講座を実施し、教員が道具を取り扱う機会を提供した。また、平成28年度の【「理論」的な支援】の布石として、2月には愛媛大学教育学部附属小学校の研究大会において「つくりながら考える」ことを主軸とした授業実践を行った。 本研究成果は第54回大学美術教育学会横浜大会(9月)、第38回美術科教育学会工作・工芸領域研究部会(3月)にてそれぞれ口頭発表を行った他、大学美術教育学会誌にはアンケート調査に関する内容をまとめた論文を投稿し、「美術教育学研究48号(p.345-352)」(2016年3月)に掲載されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大きな成果として、松山市立の小学校を対象にしたアンケート調査によって、小学校教員の道具の取り扱いの状況や課題などを明確にできたことがあげられる。その成果から「1.クランプ等の使用による造形活動における安全性の向上」、「2.教員のためのものづくり体験の機会充実」、「3.道具の整備と管理の支援」という3つの事柄に焦点をあてて、【「環境」的な支援】に関する研究を進めることができた。 「1.」については、免許状更新講習や松山市教科サマーセミナーや愛媛大学の授業という機会をいかして、安全性の向上をはかるためのクランプ等の使用方法等についての講習を、現職の教員や学生に対して行うことができた。「2.」は、「教員のためのものづくり体験」の充実を目的として、新しく木工旋盤の導入に踏み切った。今年度は機器を購入する準備として、機器の管理方法や基礎的な技能講習を受講し、研究者自身の知識と技術の拡充を図った。「3.」は、道具の貸出を視野に入れて2クラス80名を想定した道具の整備・拡充を行った。揃える道具はアンケート調査結果を参照しており、平成27年度はのこぎり(両刃・胴付き・糸のこ)、金づち、C型クランプ、L型クランプ、キリ、彫刻刀(丸刀・三角刀・印刀)、ペンチ等の購入を済ませている。また、各小学校において道具の管理体制が不十分であるという課題については、研究当初には予期せぬものであったが、上記の道具購入と並行して課題解決の方法を模索している。具体的には、どの小学校でも実施できるようにすることを念頭におき、100均や地元のホームセンター等で購入できるような安価なものを使用し、数や状態等を把握しやすい収納方法の開発を検討している。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度は、これまでの【「環境」的な支援】を主軸とした研究成果を基盤として、「1.協力校との連携」「2.理論的な研究」「3.研究成果の発表」を実施する予定である。 「1.」については、すでに平成27年度松山市図画工作科主任会(2月)で協力・連携の依頼をしているが、平成28年度4月にも改めて同主任会にて協力を依頼し、連携を模索したい。同主任会にて協力校が見つからなかった場合は6月に実施する教員免許状更新講習にて再度通知する予定である。その上で、アンケート調査から得られた成果をもとにした3本柱を主軸として支援の具体化を図る。 「2.」については、前年度までの【「環境」的な支援】を拡張していく他に、「つくりたいものをつくる」活動についての理論研究も同時に進めていく。具体的には、「つくりながら考える」という子どもの造形プロセスに着目し、その教育的意義について論考をまとめ、小学校でも「つくりながら考える」という造形プロセスについての理解を広めるようにしたい。すでにH27年度2月に愛媛大学教育学部附属小学校の研究大会にて「つくりながら考える」を主軸にした授業実践を実施しているため、そこでの子どもの活動を分析・考察した論考となる。ここでの論考は大学美術教育学会誌「美術教育研究49号」に投稿する予定である。 「3.」については、「1.」「2.」での研究成果から課題等を抽出し、今後の恒久的な連携体制の構築に向けた提案を、2年間の研究成果として美術科教育学会等での発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
アンケート調査結果を考察した際に、それまでに計画していた物品について、種類や数量等で大きな変更が生じたことが大きな理由の一つである。アンケート実施後に改めて購入する物品の見直しを図った結果、「教員のためのものづくり体験」の機会の充実を図るための新たな取り組みとして、当初計画には入っていなかった木工旋盤機器導入の有効性が確認された。しかし、管理や使用についての知識や技術不足という不安要素があったため、研究者自身の技能講習の受講が必要だと判断し、H27年度には機器の購入に踏み切らずに、技能講習を受講することを優先させた。機器の購入はH28年度に実施することにしている。その他、旅費については、滞在日数を見直し、格安航空を利用するなどの工夫を行った結果、予定していた額との違いが生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
具体的な使用計画としては、当初購入予定に入っていなかった物品の購入(木工旋盤とその周辺機器、ホットスタンプ等)を検討している。木工旋盤本体だけでなく、管理・維持を目的とした周辺機器の購入が欠かせない。また、小学校における道具の管理体制を確立するという課題への対応策の一つとしてホットスタンプの購入を検討している。課題解決に向けての有効な手立ての一つとして、各道具へのナンバリングがある。これまで使用してきた油性マジックでのナンバリングでは、小刀等の使用頻度の高いものでは簡単に消えてしまうため、熱による処理が可能なホットスタンプの購入に踏み切ることにした。
|