研究実績の概要 |
本研究の目的は、美術(アート)による協同的創造の活動をデザイン実験よる実証的研究を通して、①美術(アート)の領域独自のスキルの分析、②モデルカリキュラムの開発の2点を明らかにすることである。2019年度は、カリキュラムデザインの過程で分析した協調的問題解決スキルの領域固有性に関する考察を投稿論文に執筆することを計画した。 汎用的な資質・能力である「協調的問題解決スキル」を育成するためには、そのスキルが発揮される場面を学習活動にデザインすることが求められる。コンピテンシーの文脈依存性(DeSeCo)の考えから教科教育において領域固有のスキルを発揮できる可能性があるという仮説を立てた上で、美術領域の学習の特徴を、①「こたえ」とは納得解である、②納得解に到達するまでのプロセスも多様であることから学習過程は構成員が「変数」となって状況依存的につくられると定義し、実践と分析を試みた。 2つのグループの学習過程の分析では、①ストーリーをつくりだすための対話が成立している場面を抽出し、②2名以上の児童による問題解決に向けた連続した会話と行為が成立している場面をエピソードとして抽出した。そこから、協調的問題解決のフレームワーク(Griffin, 2010)で提示された「社会的スキル」と「認知的スキル」を視座に、2つのグループそれぞれの協調的問題解決過程の特徴を明らかにした。その結果、美術(アート)の協調的問題解決過程において①社会的スキルと認知的スキルは複雑に発揮されていること、②異なるアイデアやこだわりをもつ他者を説得し「共感」を生むためのスキルが働いているなどの、美術(アート)領域課題における特徴的なスキルの質を確認することができた。 今後はケーススタディの積み上げから、多様な美術(アート)の課題だからこそ発揮される協調的問題解決スキルの諸相を描き出していきたい。
|