本研究は、幼児期の表現の育ちにおける、日本の伝統音楽体験の意義について、音楽教育学的視点、保育学的視点、学習科学的視点から探ると同時に、フィールドワークとワークショップ等の実施、分析を通して明らかにすることを目的としている。最終年度は研究の総括も含め、以下の点について考察・検討を行った。 ①これまでの事例及び分析結果について振り返り、その成果を整理した。 ②都内こども園において、唱歌に着目した囃子奏者と笛奏者のワークショップ及びワークショップ後の演奏会を見学し、方法論や子どもの様子について、これまでの事例と比較をしながら検討した。 ③関連研究を収集し、その動向を整理・検討した。特に、本研究において着目した「唱歌」については平成29年3月告示『中学校学習指導要領』の中でも和楽器の学習に際して適宜用いるよう指摘されるようになる他、「日本音楽の教育と研究をつなぐ会」の成果(『唱歌で学ぶ日本音楽』音楽之友社、2019年3月)等に見られるように、日本の伝統音楽を用いた教育実践において近年注目されていることが明らかとなった。 ④乳幼児が自ら興味をもった文化(楽器等)について、試行錯誤しながらその技術を身に付けていく過程が子どもの表現の育ちにとってどのような意味があるのかを検討し始めた。我々は様々な文化の中に育ち、やがて文化の実践者・創造者となっていく。乳幼児が様々な文化と出会い、かかわり、主体的に我がものとしていく姿の意義を検討することは、当該研究をより広い視点から意味づけていくことにも繋がると考える。 ⑤昨年度に引き続き、保育者・教員養成課程の学生を対象に、ゲスト講師を迎えた箏、三味線に関するレクチャーをパイロット研究的に行った。
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