研究課題/領域番号 |
15K17435
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小野 頌太 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40646907)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナノカーボン / 強束縛模型 / 太陽電池 / 電子ホール対 / 5員環配置 |
研究実績の概要 |
本研究は、様々なナノカーボンが示す特異な電子物性を解明し、理論と実験との不一致を解消することを通して、物性研究に対して新たな視座を与えることを目的としている。(1)一つの課題は、フラーレン重合体と呼ばれる一次元ナノカーボンの物性における超周期構造とランダム構造との競合効果を解明し、系の実験結果を統一的に理解することである。本年度は、ランダム構造と超周期構造とが競合する有効一次元強束縛模型を構築し、一次元鎖が軸方向に伸張すると絶縁体金属転移が発現し得ることを明らかにした。このモデルは、系の低温電子輸送の温度依存性異常を説明し得る。また、(2)ナノカーボンを用いる太陽電池のミクロな電荷分離機構を理解するための研究にも新規に着手した。誘電界面においてどのようにして電子ホール対が分離し系に電流が生じるかという問題は、有機太陽電池の研究における未解決問題の一つである。本研究では、空間的に不均一な誘電率を持つ系に適用可能な二粒子シュレディンガー方程式を導出し、電荷移動励起子のミニマムモデルを構築した。さらに、界面電子ホール対に対する強束縛模型を構築し、ナノカーボン太陽電池の電子状態に適用し、新規な電荷分離機構を提案した。その他、(3)ナノチューブキャップの第一原理計算を行い、キャップ部位の5員環配置やキャップ幾何形状と電子状態との相関を調べ、(4)金属の過渡励起子を議論するための線形応答理論の展開を行い、ナノカーボンの新規基礎物性探索に向けて広範に研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、誘電率の空間的不均一性に着目しフラーレン重合体の光物性を研究していたが、不均一誘電媒質に対するポアソン方程式の形式解を得ることに成功し、その解が有機太陽電池の電荷分離研究に適用が可能であることに気がついた。この着想に基づいて、ナノカーボンと有機分子との界面における電荷分離を研究し、2本の論文を投稿することができ、新たな方向へ研究が大きく進展した。その他、ナノチューブキャップのランダムな5員環配置と電子状態との相関についての研究や、ナノカーボンの時間分解分光実験データの解釈に向けた理論構築や実験家との共同研究も順調に進んでいる。その一方で、フラーレン重合体の電子物性解明は、十分に進んでいないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
フラーレン重合体の電子物性解明に向けて、鎖間相互作用を取り入れた強束縛模型の構築または第一原理計算を実行し、高次元効果の解明を通した新規物性予測を行う。また、今年度に新しく着手した研究(ナノカーボンが示す非平衡現象の統一理解)、5員環配置-電子物性相関の研究にも精力的に取り組み続ける。
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