新規ナノカーボンC60重合体の物性研究における問題は主として、その構造モデルが明らかになっていないこと、60K付近における光励起キャリア緩和異常を十分に理解できていないことの2点にある。そこで最終年度では、C60重合体の基礎物性解明と実験の理論解釈を目的として研究を進めた。 (1)申請者は、これまで1次元C60重合体に対して54個の構造モデルを提案している。しかし、それらが動的安定性を有するかどうかは明らかになっていない。そこで、最適化されたTersoffポテンシャルを用いて、C60重合体の安定性を再検討した。結果、提案されていた54個の内、7個のモデルだけが動的安定性を示すことを明らかにした。解析により、系の安定性の起源が円筒軸周りの回転対称性の有無にあることを明らかにした。 (2)まず問題を一般化し、光励起された金属の電子フォノン緩和を理論的に調べた。一般に、金属の緩和素過程は、電子系とフォノン系についての二温度モデルに基づき理解される。時間分解分光データと二温度モデルの結果とを比較することで、 電子フォノン結合定数を算出することができる。 しかし「緩和過程の各時刻において電子温度とフォノン温度が定義できる」 という仮定に関しては疑問が残る。 そこで、電子間、電子フォノン間、フォノン間散乱効果を考慮し、分布関数の時間発展を研究した。 結果、二温度モデルを実験に適用すると、電子フォノン結合定数が過小評価されることを明らかにした。 また、非平衡フォノン緩和に注目し、その全エネルギーがパワー則に従い減衰するという新奇な現象を見出した。結果に基づき、SrMnBi2のキャリア緩和実験に妥当な解釈を与えた。今後は(1)で見出した構造モデルを用いて系の光励起キャリア緩和を理解する。
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