研究課題/領域番号 |
15K17437
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
佐藤 健太郎 仙台高等専門学校, 総合科学系, 助教 (90583550)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / 共鳴ラマン分光 / 原子層物質 |
研究実績の概要 |
原子1個分の厚さの膜からなる原子層物質は、層の枚数、種類、重ね方といった積層構造に物性が依存するため、積層構造を工夫することにより新規物性の発現や応用が期待される。炭素原子からなり原子1個分の厚さを持つ膜であるグラフェンを2枚重ねた物質は2層グラフェンと呼ばれる原子層物質であり、その層に垂直な軸に対して一方の層が標準的な重なり方からある角度だけ回転して重なった状態を積層構造がねじれた2層グラフェン(TBG)という。TBGは層間の角度により光学的性質などの物性を制御できる原子層物質の一種である。TBGなどの原子層物質の物性を調べるには光の非弾性散乱を利用するラマン分光が広く用いられており、TBGでは散乱光中のGバンドとよばれるピークの強度と入射光や角度との関係から物性が調べられてきた。 本研究ではTBGの積層構造と物性の関係のうちTBGのグラフェン層間の間隔にも注目し、共同研究者による層間方向に圧力を加えてグラフェン層間距離を変えることによりGバンド強度の変化を調べる実験および佐藤健太郎によるTBGの電子構造の数値計算から層間間隔とGバンド強度変化の関係を示した。TBGは特定の角度と入射光エネルギーでGバンドの強度が増強することが知られている。数値計算は層間距離が減少するとGバンドの強度が増強するのに必要な入射光エネルギーが増え、その後にゆるやかに減少する傾向を示し、共同研究者による実験結果の傾向と一致している。本研究により層間間隔とGバンド強度の増強が起こる入射光エネルギーとの関係が明らかとなり、このようなTBGの積層構造に強く依存する特性は光学デバイスなどへの応用に有用であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度において共同研究により明らかにした原子層物質である積層構造がねじれた2層グラフェンにおける層間距離とGバンド強度の増強が起きる入射光エネルギーの関係を明らかにすることは当初の研究実施計画には明示されていなかった。しかし、共同研究者による本研究に関する新規実験結果の解析および考察が必要とされたため、当初の本研究課題を推進する上での研究計画および方法に基づいて優先度を組み替えて研究を推進した。平成28年度の研究成果は原子層物質のラマンスペクトルにおける励起光エネルギー、結晶構造との関係を明らかにするという本課題の研究目的に一致しており、また原子層物質である積層構造がねじれた2層グラフェンの積層構造と光学特性に新たな知見を与えている。本研究の目的、研究推進方策と平成28年度における研究進捗状況を比べると、これまでの研究成果は本研究課題の推進方策におおむね基づいており、また本研究課題の目的を達成するために必要である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、引き続き原子層物質のラマンスペクトルを求める計算プログラム群の開発および第一原理計算を利用した計算への展開をおこなう。積層構造がねじれた2層グラフェンのラマンスペクトルと結晶構造、励起エネルギーの関係についての計算を展開しながら、積層構造がねじれた2層グラフェンのラマンスペクトルにおけるStokes-anti-Stokes散乱過程の考察および数値計算プログラム群の開発を進め、Stokes-anti-Stokes散乱におけるラマン強度の特性解明についての研究を推進する。本研究により得られた知見や開発した計算プログラム群および手法は平成30年度において他の原子層物質の結晶構造、励起光エネルギーとラマンスペクトルの関係を解明する場合に利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度に起きた校務状況変化への対応が予想より長引き、平成28年度は予定していた学会やシンポジウムへ参加できないことがあった。そのために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度分として請求した助成金と合わせて、研究成果発表および情報収集のための学会やシンポジウムへの旅費および参加費、また研究を推進するための計算機環境の整備、資料を購入する費用の一部として使用する。
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