研究課題/領域番号 |
15K17438
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
押切 友也 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (60704567)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ナノ材料 / 再生可能エネルギー / 局在表面プラズモン共鳴 / 人工光合成 / アンモニア |
研究実績の概要 |
本研究では、従来の高温・高圧条件下でのハーバー・ボッシュ法とは異なる低環境負荷なアンモニア合成法の開発を目指すものである。 これまでに、プラズモン光アンテナとして金ナノ粒子と、助触媒としてルテニウム微粒子を担持したチタン酸ストロンチウムを光電気化学触媒として用いることで、窒素の還元によるアンモニアの合成に成功しているが、反応選択性の低さや、犠牲試薬としてエタノールを用いる必要があった。 平成27年度は、助触媒への吸着種が反応選択性に大きな影響を有すると推測し、窒素原子の吸着エネルギーが水素原子のそれよりも優位となると予測されるZrを用いて光電気化学触媒を作製し、アンモニア生成の選択性に関する検討が行った。その結果、アンモニアの生成速度がルテニウムを用いた場合の6倍程度まで増大すること、さらにアンモニア生成の選択性が飛躍的に増大することが明らかとなった。 さらに、犠牲試薬として用いていたエタノールを添加せずに、水のみを電子源としてアンモニア合成反応を行ったところ、陽極で水の酸化による酸素発生が、陰極で窒素の還元によるアンモニアの生成がそれぞれ確認された。また、その生成比はおおよそ4:3であり、化学量論的に反応が進行することも示された。 さらに、本系において生成したアンモニアの窒素源が空中窒素であることを検証することも行った。本反応系の酸化槽に同位体窒素ガスを封入し、光アンモニア合成反応を行い、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて生成したアンモニアの質量分析を試みたところ、標準物質であるアンモニアと同一の溶出時間に同位体窒素含有アンモニアを示すピークが明確に観測された。これは、封入した窒素ガスが固定されてアンモニアへ変換されたことの証左といえる。 以上より、プラズモン誘起電荷分離を利用し、可視光と水を用いて空中窒素を還元し、水素キャリアとして注目されているアンモニアの合成が実現された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度は、反応助触媒の改良により、反応選択性が飛躍的に向上してほぼ選択的にアンモニアを得ることに成功しただけでなく、反応効率も大幅に向上した(従来の6倍以上)。 さらに、犠牲試薬を用いることなく、水、空中窒素、可視光からアンモニアを得ることに成功した。これは当初設定した最終達成目標の一つであり、計画を大幅に上回る成果と言える。 また、歴史上アンモニアの光触媒による合成は生成効率が低いこともあり、常に環境からのコンタミネーションの懸念にさらされてきたが、本研究では同位体窒素ガスを反応物として用い、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析することにより、窒素ガスがアンモニアに変換された直接的な証拠を得ることに成功した。 さらに、助触媒の効果を検討する中で助触媒によって反応機構が異なる可能性が示唆された。窒素の光電気化学的還元によるアンモニア合成反応に関する知見は世界的に見ても未だ乏しく、本研究成果はその反応機構を明らかにする上で極めて重要な知見であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は反応のさらなる高効率化を目指し、デバイス設計に注力する。具体的には下記の計画で研究を進める。 1)反応表面積及び光捕集効率を増大するために、半導体基材の三次元化加工を行う。特に、電子の進行方向を一次元に規定可能なナノチューブやナノホールアレイなどの構造が有用であると考えられる。 2)イオン輸送効率を増大可能なデバイス設計を行う。現状では窒素ガスの還元は触媒・窒素・水溶液からなる3相界面での反応であるため、塩橋などのイオン輸送経路が確保出来ておらず、反応律速となっていると考えられる。ナフィオンなどのイオン輸送可能な高分子膜などを用いることで、イオン輸送経路を確保する。また、(1)で作製した三次元半導体と組み合わせることで、イオン・電子輸送を効率的に行いながら反応可能なデバイスの構築を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度末(~3/27)の出張を精算払いとし、28年度の支出として計上されたため。
|
次年度使用額の使用計画 |
上述の通り、既に使用済み。
|