研究課題/領域番号 |
15K17439
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小幡 誠司 東京大学, 新領域創成科学研究科, 助教 (90616244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グラフェン / プラズマ / 酸化グラフェン |
研究実績の概要 |
27年度は、プラズマを用いた酸化グラフェン(GO)からのグラフェン生成に関して高品質化の試みを行った。具体的には触媒として金属を利用し、高品質化と低温化を試みた。銅や白金、金等の種々の金属を検討した結果、銅を用いることで、低温で高品質のグラフェンを作製できることを見出した。さらに銅をSiO2上に部分的にだけ蒸着することで、その近傍のSiO2上のGOから、Cuがない時に比べ、低温でも高品質のグラフェンが生成した。この手法により転写不要で絶縁基板上に直接成長が可能になった。さらに、プラズマ処理の前後でGOの形は変わらず、当初の計画通り、GOの加工容易性を生かしたパターニングされたグラフェンの作製も可能であることがわかった。また、この手法により作製されたグラフェンを用いて電界効果トランジスタ(FET)を作製し、電気伝導測定も行ったところ電子・正孔ともに移動度が約500cm2/V・sと通常のGOから作製される還元GOに比べ50倍から100倍の値を示した。このことからも本手法が高品質グラフェンの生成に有用であることがわかる。 1層のGOを高品質なグラフェンにすることがこの手法により可能になったため、現在は様々な配向をもった2層グラフェンの作製を試みているところである。特に多様な配向を得るために1層目にはLangmuir Blodgett膜を利用し、高密度にGOを成膜した基板を用いる手法を検討中である。それにより、同一基板で多様な配向をもった2層グラフェンが大量に生成することを目標に実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、1層GOからの高品質なグラフェン化を試みていた。金属を用いることで高品質なグラフェンが低温で絶縁基板上に直接成長可能であることが見出された。その中でも銅を用いることで品質が大きく向上し、生成温度も低温化することができた。伝導測定においても、高品質のグラフェンの生成が確認され、本手法が有効であることが種々の測定からわかった。また2層グラフェンの作製においても、1層目のGOをLangmuir Blodgett法により作製する準備を進めており、銅を用いる手法と併用することで多様な配向をもった2層グラフェンの作製が可能になるのではないかと考えている。また二層グラフェンの作製と並行してさらなるプラズマ条件の最適化やGOの反応性を高めた状態でのプラズマ照射などによる低温化の検討も始めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度に開発した銅を用いた作製手法を2層グラフェンの作製に応用することが第一に行うべき課題である。この際、同一基板で多様なスタッキング構造を持つグラフェンを大量に生成するために、1層目の酸化グラフェン(GO)をLangmuir Blodgett法を用いて成膜した試料を使用する予定である。 そのため、まずは1層目のGOをLangmuir Blodgett法を用いて作製した基板で同様のグラフェン化が進行することを確認する。その後、2層目のGOをスピンコート法により成膜し、グラフェン化を試みる。この際、グラフェン化の条件が1層目のグラフェンと同様とは限らないため、その条件の最適化も行う。また、用いるGOの試料の大きさも100μm以上のものから1μm程度まで調整可能であるので、1層目、2層目共に様々な大きさのGOを用いて実験を行い、グラフェン化の進行の度合いなどの試料サイズ依存性などについても調べる。そのようにして、作製した2層グラフェンをRaman分光法や電気伝導測定を行うことで評価し、グラフェン同士の配向が物性におよぼす影響を調べる。 また、さらなる低温化を目指し、GOに通電しながらのプラズマ処理や銅雰囲気での処理なども並行して行う予定である。さらに可能であれば、STMもしくはTEMを用いた2層グラフェンの局所構造解析も行う。 これらの実験から多様な配向をもった2層グラフェンの大量合成法の確立と配向と物性の関係について明らかにすることが目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は酸化グラフェンからのグラフェン作製に関して、主に触媒を用いた新規手法による高品質グラフェンの作製に関する研究を行っていた。銅蒸着装置やSi基板、プラズマ装置など、既存の装置を改良、応用することで実験が進行できたため、物品の購入等は行わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今後は2層グラフェンの作製が可能になる見込みであるので、それらを用いたデバイス作製に関する物品の購入や、室温でのグラフェン成長を狙った新たなプラズマ装置の導入などに予算を使用する予定である。さらに、STMによる局所構造解析のために、必要なホルダーや冷却が必要な場合はそのための物品購入などに使用する。また、今までの成果を国際、国内学会で発表するための旅費や論文投稿費用などに使用する。
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