研究課題/領域番号 |
15K17439
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小幡 誠司 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任助教 (90616244)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グラフェン / プラズマ / 酸化グラフェン |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度までに見出していた銅触媒を利用する手法を改良し、さらなるグラフェンの結晶性の向上に取り組んだ。またin-situ 伝導測定による修復機構の解明、2層グラフェンの作製も行った。グラフェンの結晶性向上のため、水素・メタン比を変更してグラフェン化処理を行った。それにより、ガス比によるグラフェンの結晶性の違いが明らかにすることができた。水素比が大きい時ほど、アモルファルカーボンの生成が抑えられ、成長に時間を要するが結晶性が向上することを見出した。これらの知見を元に、水素・メタン比が50:1の時に8~10時間処理することで酸化グラフェン(GO)由来のグラフェンとしてはこれまでにない非常に高結晶性のグラフェンの絶縁物上での直接生成にに成功した。また、修復機構解明のために、修復過程中に伝導度を測定できる装置を立ち上げた。本実験において、プラズマを発生させなくともメタンによって低温(550℃)でGOが修復することが見出された。これは非常に高温になっているタングステンヒータによってメタンが分解し、修復が進行したと考えられる。この手法も新規GO修復法として期待されるものである。また、2層目グラフェンの作製については1層目のプラズマ処理によって銅触媒が不活性化してしまうことがわかったが、再度銅を蒸着することで2層グラフェンの作製に成功した。Raman分光法から様々な配向をもった2層グラフェンの作製が示唆された。本手法によって、GOの層間相互作用の弱さに由来した多様な積層構造を持つ2層グラフェンが生成できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銅触媒の利用と作製条件の最適化によって当初に計画していたよりも、非常に高結晶性のグラフェンの生成に成功している。具体的にはFET移動度で4倍程度の向上が実現している。また、in-situでの電気伝導度測定装置の立ち上げによって、修復機構の解明やプラズマなしでの修復にも成功している。当初の目的であった2層グラフェンの作製も銅触媒の再蒸着を行うことによって可能であることがわかった。Raman分光から作製した2層グラフェンはGOの弱い層間相互作用を反映して、様々な積層構造をもつことが示唆されている。大きな目標であった、種々の積層構造を持つ2層グラフェンの作製には成功したといってよい。残された課題としては積層構造の電気伝導特性への影響を明らかにすること、より結晶性の高い2層グラフェンを作製すること、走査トンネル顕微鏡Mによって2層グラフェンの積層構造を原子分解能で明らかにすることである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題としては、第一に積層構造と電気伝導特性の相関を解明することである。多様な2層グラフェンの配向をRaman分光により決定し、それらの電気伝導特性を各グラフェンごとに測定することで解明を試みる。もう1つは走査トンネル顕微鏡(STM)によって作製されたグラフェンの構造を原子分解能で明らかにすることである。プラズマによって修復されたGOの局所構造は未だ不明であり、端の構造も含めて非常に興味がもたれる。さらに積層構造もSTMで観察し、Raman分光の結果と比較することで局所構造とRamanスペクトルの相関についての知見を得る。また、ガス比を成長中に変更することやプラズマ条件の調整などによって、今以上に高結晶性のグラフェン作製も試みる。In-situ電気伝導測定に関しても、ヒータの種類を変更したり、作製条件を変更したりすることで修復機構のさらなる解明と、低温化を目指す。また、今後の透明電極等への影響を考え、2層グラフェンのみならず大面積に一様な3層・4層のグラフェンの作製にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会や論文投稿による成果発表のために使用予定であったが、当初予定していたよりもグラフェン結晶性の向上の条件検討に時間を要してしまい、実験結果をまとめるまでに至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今までに得られた結果について平成29年度に国際学会および論文投稿を行う予定であり、そのために使用する予定である。
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