研究課題/領域番号 |
15K17445
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
迫野 奈緒美 富山高等専門学校, 物質化学工学科, 助教 (10734387)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 気相生成 / コアーシェル / 構造解析 |
研究実績の概要 |
二種類の異なる金属で構成される二元金属コア-シェル型ナノ粒子は、金属ナノ粒子の中でも特に触媒活性が高いことが知られている。液相中における金属イオンの還元によるナノ粒子作製は、コアおよびシェルとなる金属がイオン化傾向に依存しており、その順序を入れ替えた粒子を作製するには煩雑な操作を必要とするなど、ナノ粒子作製の自由度は低い。本研究では、液相中における金属イオン還元法とは異なる、気相合成法を用いて、イオン化傾向の影響を受けないコア-シェル型ナノ粒子の簡便な作製法を確立することを目的とした。 本年度は、昨年度得られた単一金属ナノ粒子の合成条件をもとに、実際に気相法を用いたコアーシェル型ナノ粒子の合成を試みた。生成したナノ粒子の構造解析は、透過型電子顕微鏡による形状観察およびEDS分析による元素の同定を行った。 電気炉を2台連結させ、それぞれの電気炉に異なる金属を設置し融点付近まで加熱することでナノ粒子を生成した。本研究により、この手法を用いることで2種類の金属からなる複合ナノ粒子が合成可能であることを示した。また、連結した2台の電気炉のうち、上流側の電気炉に設置した金属と下流側の電気炉に設置した金属では、下流側に設置した金属がナノ粒子の核となる部分を構成しており、上流側に設置した金属は、ナノ粒子の周りに散在するような状態で存在することが明らかとなった。また、この傾向は金属の種類に依存しないという事も明らかとなった。 生成したナノ粒子のコアーシェル構造の確認、および生成したナノ粒子の触媒活性評価については、来年度さらに詳細に評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は、以下の内容に関して検討を行った。全体としてはやや遅れ気味の進行ではあるが、着実に進んでいる。 (1)コアーシェル型金属ナノ粒子の合成 最適化された単一金属ナノ粒子の生成条件を元に、これまでに触媒活性の報告がなされている逆コアーシェル型金属ナノ粒子である、AgコアーAuシェル複合ナノ粒子の生成を試みた。電気炉を2つ連結させ、上流側の電気炉にはAg粒を設置し、下流側の電気炉にはAu粒を設置した。それぞれの電気炉にて各金属の融点付近まで加熱し、上流側から不活性ガス(N2ガス)を流すことでナノ粒子を生成した。装置の出口部分に顕微鏡観察用グリッド設置のための部品を取り付け、生成されたナノ粒子をグリッド上に捕集した。透過型電子顕微鏡を用いてグリッドを観察したところ、ナノ粒子の存在を確認することが出来た。また、EDS分析により、ナノ粒子中にAgおよびAuが含まれていることも確認出来た。 (2)回収した金属ナノ粒子のプラズモン特性の評価 水相に回収した金属ナノ粒子のプラズモン特性を紫外可視吸光光度計を用いて測定した。コアーシェル型ナノ粒子の吸収波長は、単一金属ナノ粒子とは異っていたことから、今回合成したコアーシェル型ナノ粒子は単一金属ナノ粒子と異なる性質を持つ粒子であることを示した。また、吸収波長からは光学特性だけでなく回収したナノ粒子の凝集状態を評価することができる。今回回収した金属ナノ粒子は、水相中において分散した状態で存在可能である事も確認した。また、粒径と最外金属の種類を揃えた、単一型、コアシェル型の光学特性を比較した。内部構造が異なる事で、プラズモン吸収波長が異なる事を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、生成された複合ナノ粒子について、さらに詳細な構造解析を進める。また、気相中におけるナノ粒子生成に関する生成メカニズムに関しても議論していきたい。さらに、生成したコアーシェル型ナノ粒子を用いて、触媒活性評価も行う。具体的には、グルコース酸化反応に及ぼす触媒活性の評価を行う。Auナノ粒子、Agナノ粒子、複合ナノ粒子をそれぞれ生成し、それぞれについての触媒活性の比較を行い、本手法で生成したナノ粒子が液相中で生成されたナノ粒子と同様の傾向を示すか検討する。また、液相合成で生成したナノ粒子と気相合成で生成したナノ粒子の性質の比較を行い、生成法の影響も議論する。 さらに、3種類以上の金属を用いたマルチコンポーネント金属ナノ粒子の創製も行いたい。3台あるいはそれ以上の電気炉を連結させ、複数金属から構成される多成分金属ナノ粒子の作製を試みる。2種類の金属を用いる際には電気炉を直線に連結したが、3種類以上の場合、目的とするナノ粒子の構造に合わせ、直線型、Y字型等、様々な電気炉の連結手法が考えられる。Y字型にすることで、コアとなる金属がAgとPdの混合ナノ粒子、シェルとなる金属がAuのみとなる、クラスターインクラスター型Ag・Pd-Au複合ナノ粒子を生成することが予想される。また、直線型にすることで、多層に積層した複合粒子の生成も可能と考えられる。近年の研究からAg-Au-Ag積層ナノ粒子はバイオセンシングプローブへの利用も示唆されており、幅広い分野で利用できる複合ナノ粒子が生成出来る可能性がある。複雑な多成分金属粒子の作製を通じて、本手法による金属ナノ粒子作製が応用的利用性の高いものであることを明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験の主要装置である電気炉の故障により、2~3ヶ月の実験中断が余儀なくされた。そのため、実験の進行が遅れてしまった。また、コアーシェル型ナノ粒子の構造解析に関して、外部の研究機関に分析依頼をしたため若干時間がかかった。さらに、コアーシェル型ナノ粒子の構造解析の結果、想定していた結論とは若干異なる結果が得られたため、今後の研究の進め方をもう一度見直す必要があった。研究の進め方の見直し、および再検討に時間がかかった。これらの理由により、当初予定していた実験計画よりも若干の遅れが生じ、当該年度の使用額が抑えられたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究で生成した複合ナノ粒子の生成メカニズムについての議論を行う。そのために、条件の異なる複合ナノ粒子を複数合成し、それぞれの粒子構造に関して比較・検討を行う。また、気相中で生成したコアーシェル型ナノ粒子の触媒活性評価も行う。具体的には、グルコース酸化反応におよぼす触媒活性の評価を行う。この反応は、用いる金属触媒をコア-シェル構造にすることで触媒活性が変化することが既に報告されている。Auナノ粒子およびAgコア-Auシェルナノ粒子で触媒活性の比較を行い、本手法で作製したナノ粒子が同様の傾向を示すか検討する。また、液相合成で生成したナノ粒子と気相合成で生成したナノ粒子の性能の比較も行い生成法の影響も議論する。さらに、3台あるいはそれ以上の電気炉を連結させ、複数金属から構成される多成分金属ナノ粒子の作製を試みる。 これらの結果を元に、論文発表や学会発表等を積極的に行っていきたい。
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