平成27年度はグラフェンの窒化とそのメカニズム解明に関して研究を実施した。X線光電子分光、およびラマン散乱スペクトルによる窒化グラフェンの構造解析を行い、窒化率、窒化に用いた中性粒子ビームエネルギーと窒化状態の解明、欠陥形成に関して知見を得た。 窒化率は照射ビームエネルギーには大きく依存せず概ね3%程度で飽和することが明らかになった。グラフェンの6員環構造を維持するために必要な最大窒化率を考慮すれば妥当な結果といえる。また、X線光電子分光によって窒素-炭素間の結合状態を明らかにした。窒素-炭素間の結合状態は照射するビームエネルギーに依存し、単結合と二重結合を選択的に合成可能であることが明らかになった。また反応性に富むグラフェンエッジは3eV程度の低いエネルギーで窒化されるのに対し、窒素と炭素の置換反応によって形成する窒素-炭素単結合はその結合エネルギーと同等の訳7eVで選択に形成可能であることがわかった。さらにラマン散乱分光法から算出した欠陥割合はこれまでに報告されている他のグラフェン窒化手法に比べて少ないことが明らかになった。以上のように、ビームプロセスによるグラフェンの窒化には選択的構造形成において最適なエネルギーが存在し、窒素原子の置換反応、炭素原子の脱離に伴う欠陥形成に密接な関係があることが解明された。 本年度に得られた成果は、多様な応用が考えられる窒化グラフェンについて、はじめて構造選択的な合成法を提案し、詳細な構造解析を行ったことである。次年度以降では構造を原子レベルで制御した窒化グラフェンの物性評価を行う予定である。
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